[TOP]



【←前の話】 【放映リスト】 【次の話→】

第23話
「脱出不能!逃亡者を探せ!」

1998年09月12日放映


宇宙へ戻る術を失った子供達は、ポール達を見つけだして脱出の方法を探そうとする。ようやく見つけたポールは、地球人である自分とククトニアンの妻リグレーとの間に生まれた一人息子のアランが脱出の際に犠牲となり、彼の墓を作るために片道切符でこの地までやって来たことを話す。脱出の方法がないことを知って泣き出す子供達に亡き息子の面影を見たリグレーは、自分だけでも彼らの脱出に協力すると申し出る。ポールも仕方なく、子供達の脱出を手伝うことになった。

第22話でのシャトルの離陸失敗を受け、子供達が新たな脱出方法を探す過程で再度チェンバー夫妻と遭遇する一篇です。そしてここで、ようやく…と言っていいでしょう、チェンバー夫妻が「片道切符」で旧タウト星にやって来た理由が明らかとなります。

…シャトルが大破し、旧タウト星から脱出する術を失った子供達。彼らはチェンバー夫妻を探し、なんとか宇宙へ戻る方法を見つけだそうとします。隠しておいたバイファムとネオファムを再び引っ張り出し、トラックのタイヤ跡を探すロディとバーツ。近くの森の中にいたチェンバー夫妻を発見して彼らを問い詰める子供達ですが、そこにククト軍の汎用艇XU-23aが飛来。降下してきたARVジャーゴとの戦闘に巻き込まれ、ポールは怪我をしてしまいます。
ケンツとシャロンの活躍もあってなんとかククト軍を撃退した子供達。怪我の手当てを受けたポールは、子供達に問い詰められ真実を打ち明けます。自分がかつてイプザーロン星域に派遣された地球側の第1次学術調査団のメンバーであり、隕石事故によって遭難した時ククト側の学術調査隊に助けられたこと。そのメンバーだった妻リグレーとの間に生まれた一人息子のアランが、地球との戦争の気運が高まる中で自分の出生の秘密に悩み、傷つき、家を飛び出したこと。そして逃亡者となった夫妻のもとに戻ってきたアランが旧タウト星で自分達と共に暮らすのを約束した直後、追っ手から自分達を守るために犠牲となってしまったこと。そして彼らはそのアランの墓を作るため、彼の生まれ故郷であるこの地までやって来たこと…。
だがその一方で、ポール達はここ旧タウト星に骨を埋めるつもりでやって来たため、この星から脱出する方法は持ち合わせていないと子供達に泣き出してしまうマルロやルチーナ、ケンツ達。そんな子供達に幼少時のアランの面影を見たリグレーは、子供達を助けるためにせめて自分だけでも協力すると申し出ます。そんな妻の行動を目の当たりにし、仕方なく脱出の手伝いをすることを決めるポール。自信満々に高笑いをする彼には、何か勝算があるのでしょうか…?

…というわけで、第19話での初登場以来、『植物学者である』ということを除いてその正体がはっきりしなかったポール・チェンバーが地球から派遣されたかつての第1次学術調査団のメンバーであったことが判明します。彼によって語られた息子アランの物語は、まさしくオリジナルシリーズにおけるミューラアのエピソードの焼き直しといえるものです。
自らの生い立ちに悩み苦しんだミューラアがククト星篇以降物語の核となったのに対して、今回語られたチェンバー夫妻の境遇がストーリーの核となることは最後までありません。劇中で語られたように彼らの息子アランは既にこの世の人ではなく、彼らは息子を弔うために今回の事件を起こしたに過ぎないからです。
しかし、ここにきてチェンバー夫妻と息子アランが13人同様に『戦争の犠牲者』であるというスタンスが明確になったことにより、ようやく彼らのキャラクターがバイファムという物語の大きな流れに沿うことになりました。演出的には依然???な部分は多い上、作画そのものがこれらの物語をきっちりと描き切るレベルまで達していないことは非常に残念なのですが、きちんと彼らの行動の背景が描かれ始めたことによってこれまでの物語の不透明さは多少なりとも解消されたことになります。もっともこれらの展開が「時すでに遅し」だったことは、次の第24話で証明されてしまうのですが…。

■遭難したポールがククトニアンの調査隊に救助された39年前というのは西暦2019年という計算になりますが、これは地球側がイプザーロン星域の調査を開始したのが2019年であるというオリジナルシリーズの設定(※)との整合性がきちんと取れているようです(ただ、本当は有人調査はこのもうちょい後、2023年頃という設定があったみたいなんですけど…まあ大目に見ましょう)。
なお、彼らの息子アランは2020年代前半の生まれ、彼とほぼ同じ境遇であるミューラアは2035年の生まれ、そして移住実験プロジェクトのメンバーを両親に持つカチュアは2047〜8年の生まれということで、境遇が似ている割にはかなり歳が離れている計算になります。ただ、アランの両親であるチェンバー夫妻はあくまで『イプザーロン星域』に派遣された調査団の所属、ミューラアの父親とカチュアの両親は『クレアド』に派遣された移住実験プロジェクトのメンバーということで、時期からしてもまったく別の団体です。従って(細かい部分は別にして)設定に間違いはありません。念のため(ああ、ややこしい)。
■キャラの演出については今回も玉石混交甚だしかったのですが、要所要所でハッとさせられるシーンがあったのも事実です。「アランは地球人もククト人もないと言った」というポールの言葉に目線を上げるカチュアと、それにいち早く気が付くマキ。そして、息子のアランと自分を重ねて見るリグレーの視線からわざと目をそらせるバーツ。いずれのシーンもセリフすらない、ともすれば見逃してしまいがちなカットですが、バイファムという作品がこういった細かい演出の積み重ねで成り立ってきたことは紛れもない事実。何かと問題が多い旧タウト星篇で、このような細かい演出が見られたことは高く評価したいところです。
■その一方、「13」開始以来ギリギリの線でオリジナルシリーズとの整合性を保ってきた13人のキャラクター描写は、この前後の回から文字通り目も当てられない状況へと捻じ曲がっていきます。この回の中盤、ククト軍の攻撃の中危機に陥ったチェンバー夫妻を助けようとするマキのセリフがその「目も当てられない状況」の象徴。彼女が砲火の中夫妻を助けに走る際口にした台詞は「死なれたらアウトだよ!」。なんと「彼らが死ぬとこの星を脱出する手段がなくなるから」というのが夫妻を助ける理由として描かれているのです。あの優しく、異星人であるククトニアンとも心を通わせながら旅をしてきた彼ら13人はどこへ行ってしまったのでしょう。これでは第20話以降描かれてきたルチーナとリグレーの心の交流は一体何だったのか、と首をかしげたくなります。
■リグレーの独白シーンで用いられた新挿入歌『約束』は、今回のクライマックスと言えるこの場面で非常に印象的な使い方をされていました。カチュア役の笠原弘子さんが歌うこの曲はこれまでのバイファムの挿入歌とは一味違う、メロディラインの非常に綺麗な楽曲です。劇中ではこのあと第25話でもう一度使用される形になりますが、もう一曲の新挿入歌「Blue」と共に、シリーズのもう少し早い時期に登場していれば…と少々残念に思えるのも事実です。
■そのリグレー独白の直前、ポールが独白するシーンにおいては旧音楽集2収録のBGM『讃歌〜明日へ』が使用されました (※アレンジは若干異なります)。オリジナルシリーズでは結局使われなかったこの曲、録音14年目にして本篇内で初のお目見えとなりました。シーンそのものは少し尻切れトンボの印象があったのですが、曲の叙情的な雰囲気をうまく生かした使い方だったと思います。
■本篇中にストーリー本筋と絡まない無意味なシーンが多いことは既に「13」の特徴となってしまっていますが、今回もケンツの行動を中心に余計なカットが多く見られました。車から転落しかけた際に蒙古斑をさらけ出し、車には乗り遅れそうになり、果ては脱出の手段がないと聞かされ悲しみのあまり銃を乱射するシーンなど、そのどれもが前後の展開に何の関連性も持たない無意味なシーンでした。単に尺の関係でシーンを追加する場合であっても、物語全体の印象が散漫にならないようにもう少し気を配ってもらいたいものです。上のシーンなどはもう少しうまく演出することで、終盤リグレーが幼少のアランとケンツをダブらせるシーンの伏線として物語に一本筋を通す役割を持ち得た気もするのですが…。
■今回回想シーンで登場したククトニアンの調査団の服装や手に持ったグラスなどは、オリジナルシリーズの設定を踏襲したデザインで描かれていました。またリフレイドストーンやARVジャーゴなども登場するなど、細かいモチーフがきちんとオリジナルシリーズの流れを汲んだものだったのはファンにとっては好ましい内容だったのではないでしょうか。
■クレジットに名前はありませんでしたが、回想シーンのアランについてはその大部分が「13」の事実上のキャラクターデザイナーである近永氏の手によって描かれたものだと思われます(この回の作画スタッフの方には失礼ですが、クオリティがまるで違うのですぐ分かります)。あと、回想シーンでどうしても言わせてほしい一言。『赤ん坊の頃のアラン、不気味すぎ』。

※=『VIFAM PERFECT MEMORY』みのり書房刊。今回参考とした記事「イプザーロン太陽系の歴史」は、監修者が制作スタッフの外池氏ということもあり、実質的な公式設定として引用させて頂きました。


[ トップページ ]