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第9話
「ヤギと人質?ふってわいたお食事会」

1998年05月30日放映


監禁しているホルテたちの態度から逃げる様子がないのを悟ったスコット達は彼女たちの監禁を解く。感激したホルテ達は食事会を開くが、その最中に再度ルルド部隊の攻撃が始まる。自分達のいる間はジェイナスへの攻撃がないと考えていたホルテは自信を喪失してしまう。しかし双子の写真をルルド艦に電送した途端、なぜか攻撃はピタリと止んだ…。

ホルテとルービンを、13人(+視聴者)にジェイナスの一員として認めてもらうにはどうすればいいか?というのは、制作サイドにとって非常に難しい問題だったと思われます。双子の赤ちゃんやククト山羊のように自分の意思とは無関係にジェイナスの一員となってしまったパターンと異なり、この2人に関しては子供達からの「敵なのか、味方なのか?」という疑いを独力ではねのけ、子供達の信頼を勝ち取る必要性がありました。
彼女達は第7話でなんとかジェイナスに乗り込んだわけですが、その際ククト軍によって小型艇に発信機が仕掛けられていたことが発覚したため子供達に疑われ、ホルテが人質となってルービンが停戦交渉に向かいます。しかし、これらの行動によって彼女達が信用されたかというとそうではなく、彼女達はジェイナスの乗組員が子供達だけであることを知った後、再び軟禁されてしまいます(第8話ラスト)。この流れについては特に問題があるわけではありません。いくら「難民保護組織」を名乗っていて、かつ女性であるとはいえ、子供達が異星人である彼女達をそう簡単に信用するわけはありません。「13」では使われない呼び名ですが、彼女達は文字通り「アストロゲーター」であるわけです。この第9話では、そんな彼女達が子供達に認めてもらうべく、ジェイナス艦内で「お食事会」を開催する様子が描かれます。

…ジェイナスの一室に監禁されたホルテはどうやって子供達に信用してもらうか頭を悩ませます。ルービンは一刻も早くルルド艦に子供達の写真を送るべきだと主張しますが、ホルテは子供達の心を開かせるほうが先だとして聞き入れません。ケンツの監視の中、ホルテ達に食事を運んできたクレアはスコットとともに再度話し合いの場を持つことになります。
そのころ船内では、誤って赤ちゃん用のミルクをこぼしてしまったシャロンが自らヤギの乳を搾りに行きます。なかなか出ないミルクに業を煮やしたシャロンは別の場所で乳搾りをしようとヤギにつながれた縄を外しますが、ヤギはその隙を突いて逃げ出してしまいます。「止まらないと食っちまうぞ〜!」と叫びながらヤギを追いかけるシャロン、その後をジミーとペンチが追いかけます(通路を逃げていくヤギをみて「あっミルクがっ!」と叫ぶペンチがユニーク)。
一方ホルテがスコットとの会談に臨んでいる間、ケンツはルービンからククト軍の情報を聞き出そうとします。まったくルービンに相手にされないケンツは意地になって銃の安全装置を外し、ルービンに迫ります(ここは第7話のラスト、ケンツがルービンにあっさり銃口を払いのけられたエピソードから連続した描写です)。しかしまったく動揺の色を見せないルービン。

その時部屋の前を通りかかったヤギに気付いて通路に出たケンツは、ヤギに飛びかかられて驚いて銃を発砲し、そのまま手から銃を離してしまいます。あっけにとられるケンツの目の前で銃を拾い、ケンツに銃口を向けるルービン、そして安全装置が外れた自分の銃を突き付けられたケンツの顔は青ざめます。しかし彼女はそのまま銃をケンツに返し、みずから室内に戻ります。あっけに取られるケンツ。このシーンは、彼がルービンに対する態度を改める大きなきっかけとなります。

そして話し合いの結果、ホルテ一行の監禁を解くことを決めたスコット達。バーツはなお彼女たちを疑いますが、これまでバーツと共にスパイ説を唱えていたケンツは先程の事件によってホルテ達への態度を改めてしまっています。おまけにマルロやルチーナはすっかりホルテになついてしまっており、当初からホルテ達を信用しているペンチやクレアを含めたほぼ全員が相手では、バーツの意見が通るはずがありません。
そして監禁を解かれたホルテ達の主催により、船内で食事会が開かれます。初めて口にするククト料理に舌鼓をうつ子供達。しかしその最中、ホルテの「私達がいる限りククト軍の攻撃はない」という言葉に反してARVブラグ5機によるジェイナスへの攻撃が始まります。ロディ達がRVで迎撃に出る一方、ルービンはルルドの要求通りに乗組員の写真を電送する作業にかかります。宇宙空間ではARV部隊との激しい戦闘が展開されますが、ジェイナス船尾にミサイルの直撃を許した上にマキとケンツの乗るトゥランファムはARV3機に取り囲まれてしまい、絶体絶命のピンチに陥ります。しかしルービンが写真を電送した途端攻撃は突如停止され、マキ達は間一髪助かります(いきなり攻撃が停止された理由は次の第10話のポイントになります)。何が起こったのか分からず、あっけに取られる子供達…。

攻撃は中止されたものの、ようやく手に入れた子供達の信用を失ったホルテは大きなショックを受けます。食堂の床に散らばった料理は、まさに彼女が失った信頼を象徴したものです。次の第10話では、そんなホルテとルービンがようやく本当の意味で子供達から信頼を得るまでの様子が描かれることになります。

■この回は物語がジェイナス船内を中心に進行し、ここまで数話つづけて描かれていたルルド艦並びにルルド個人は全く画面に登場しません。終始子供達とホルテ達の視点を軸に進行する物語は非常にオリジナルシリーズに近い自然な展開であったように感じました。またキャラ設定の近永氏が作監だったこともあってこの回は全体的な作画レベルも高く、各キャラクターの表情の豊かさに加え、久々のRV同士の戦闘シーンでは第2話を彷彿とさせるバーニアアクションが見られました。
■この回初めてククト山羊の名前が「メリー」であることが明かされます。明かされたといってもジミーが命名しただけのことなのですが、「13」に登場した新キャラクターのうち唯一シリーズ後半まで子供たちと行動を共にする彼女が、愛すべき存在として認められたきっかけであると言えそうです。
■子供達に認めてもらうためにホルテが取った行動は「お食事会を開く」というものでした。結果的にククト軍の攻撃によってこのお食事会は失敗に終わってしまうのですが、子供が相手だからお食事会などという「うわべの手段」で十分だろう、というホルテの発想は根本的に間違っていたわけです(もっとも、ククト軍の攻撃がなければ子供達の大半は彼女を信頼していたであろうことは間違いないのですが)。彼女のこの発想はこの回冒頭でククト軍を甘く見る判断をしたことがベースとなっているわけで、ある意味ホルテの楽観的な性格が非常によく表れていたエピソードであると言えます。次の第10話では結局彼女が身を呈して赤ちゃんを守るという行為に出ることでようやく子供達からの信頼を勝ち取るシーンが描かれるわけですが、この一連のエピソードの前後で、ホルテのパートナーであるルービンが下した判断こそが的を得ていた…という事実は見逃せません。ホルテとルービンの見せるこの対照的な判断は、この「双子の赤ちゃん&ラピス篇」のクライマックスである第14話に繋がっていくことになります。
■設定資料で「お嬢様」となっているホルテのキャラクターがこの回では存分に発揮されます。前出のククト軍を甘く見た判断を下してしまうシーンもそうですが、感激のあまりクレアやスコットを抱きしめるシーン、そして料理の経験がないのにお食事会を企画した上、調理をルービンに任せてしまうシーンなどなど、ギャグタッチとも言いかねない演出が散見されました。余談ながら、ホルテの「私、料理を作ったことないの」というセリフから、てっきりこのあとクソまずい料理を子供達が食べさせられるシーンが出てくると思ったのですが、残念ながら?外れてしまいました(そこまでギャグになっても困りますけど)。それにしてもルービンの鮮やかな料理の手つき、これらのホルテの演出とは好対照でした。
■ホルテ達の見張りをするケンツが、運ばれてきた食事のフォークを凶器になるのではと疑うシーンがありますが、これはオリジナルシリーズ第41話でミューラアがフォークを用いてカチュアを人質に取るシーンに呼応した演出であると思われます。芸が細かいですね。
■敵RVが戦闘を中止して引き返していくシーンで、それまで流れていたBGM「チェイサー」がフェイドアウトして聞こえなくなっていきます。「バイファム」劇中でBGMがフェードアウトしていくという表現は極めて異例のことです。ことチェイサーに関しては私の知る限り初めての用い方だと思うのですが、いかがでしょうか。またこの回の音楽は「13」用に新録音されたBGMの割合がこれまでに比べ非常に高いのですが、その中で筆者がひとつ気になったのは、ケンツに銃を渡したルービンが部屋に戻るシーンで流れたオリジナルシリーズBGMです。この曲はオリジナルシリーズの印象があまりにも強い曲で(オリジナルシリーズ第39話のラストシーン、ミューラアがバイファムから降りてきたロディを見て愕然とするシーンが代表的。音楽集総集編に「勇気」というタイトルで収録)、この場面はさすがに別のまっさらな曲を使ってほしかった…と感じたのはオリジナルシリーズへの思い入れが強い筆者だけでしょうか。
■「ククトニアン」および「ククト」という呼び名を13人が初めて耳にしたのはオリジナルシリーズの第14話、ラレドが口にしたセリフによるものです。従ってこの「13」第6話でバーツとケンツが「ククト山羊」というネーミングを知っていたことはまったくもって論外ですし、さらにこの第9話でマルロとルチーナが「わーい、ククト料理、ククト料理!」と喜ぶセリフも少々違和感が残ります。ホルテの言った「おいしいククト料理」の「おいしい」の部分に無条件に反応して「ククト料理」という未知の単語を連呼したという見方もできますが、オリジナルシリーズ第29話における「(アストロゲーターは)どんなもん食ってんだろ」というセリフを聞いてしまっているファンにとっては、やはりこのセリフは緊張感に欠けるものであると言わざるを得ません。

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