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第8話
「ジェイナス危うし!敵は、内と外にいた?」

1998年05月23日放映


ホルテを残してジェイナスを脱出したルービンの説得でルルドはジェイナスへの砲撃を中止する。ルルドは避難民の写真を電送するよう要求し、ルービンは小型艇で再びジェイナスに戻る。一方ジェイナスの中では、人質として軟禁されていたホルテが部屋を脱出。子供達しかいないブリッジにやってきた彼女は、ジェイナスに軍人が乗船していない事実を知って愕然とする。事情を知ったホルテは子供達を守る決意を新たにするが、艦を降りる気持ちのない子供達は再度ホルテ達を軟禁するのだった。

今回は人質としてジェイナスに残ったホルテと子供達の駆け引き、そして単身ククト艦隊に乗り込んだルービンとルルド艦長の駆け引きが並行して描かれます。ここまで描かれてきた子供達&赤ちゃんの生活描写はほとんどなく、ストーリー的には前話と同様に嵐の前の静けさというところです。しかしここまでの物語と異なり、新キャラクターであるルービンとルルドの会談シーンなど、子供達と完全に離れた場所でストーリーが進行するという異例の展開を見せ始めたことは、視聴者にとって大きな違和感を抱かせることになります。

…人質となったホルテの指示により、ジェイナスへの砲撃をやめさせるために小型艇でククト艦隊に向かったルービン。彼女は抜群の操縦技術を見せてルルド艦にたどりつき、艦長のルルドに接見します。事情を説明するルービンにルルドは紳士的な応対を見せ、ジェイナスへの砲撃を一旦中止させます。ルルドは避難民の写真を電送するよう要求し、ルービンは小型艇で再びジェイナスに戻ります。これまでただの敵側としか演出されていなかったルルドが、ようやく設定にある「エリート軍人」らしさを見せます(悪役的な言動が目立つのは多少なりとも気になるところですが)。またルルドの家族がいたという「F95ステーション」については次回以降でそれが何を指しているのか明かされます。
一方ジェイナスの中では、人質として軟禁されたホルテが艦長に会わせるよう要求します。のらりくらりとかわし続ける子供達ですが、ホルテは見張りのケンツをうまくあしらって軟禁されていた部屋を脱出します。子供達しかいないブリッジにやってきた彼女は、ジェイナスに子供達しかいないという事実を知って愕然とします。自分の手で子供達を守ることを決意したホルテはラピスの母船に連絡を取り子供達を保護しようとしますが、ジェイナスを降りる気持ちのない子供達は戻ってきたルービンと共に再度ホルテを軟禁します。そしてその頃、密かにジェイナスを攻撃するための準備を進めるルルド…。

…この第8話までの展開の中で、子供達の目的、ホルテ達の目的、ルルドの目的を冷静に考えた場合、ストーリー上つじつまが合わない点はかなりあります。ホルテ達に警戒心こそ抱くものの異星人である彼女たちを前にして恐怖感をまるで抱いていない子供達、リフレイドストーンを「破壊」するのか「回収」するのか行動に一貫性がなく、やみくもにジェイナスをビーム攻撃するルルド。そしてその中でも、両親に会うのが目的である子供達がラピスの収容所に興味を抱かない点はやはり不自然であると言えます(タウト星ではなくラピスに保護されている可能性もあるわけですから、そこに両親がいないかどうか照会するシーンがあるのが妥当だと思われます)。新しい視点で「バイファム」というシリーズを描くという制作側の意気込みは分かりますが、やはり目的あっての子供達の描写がメインになってしかるべきでしょう。

…ルルド艦からの攻撃を停止させることには成功したものの、再度子供達によって軟禁されてしまったホルテとルービン。そして物語はいつしかホルテとルービンの視点から「彼女達がいかにして子供達から信頼を勝ち取るか」を描くという、極めてバイファムらしくない展開が続くことになります。

■双子の赤ちゃんは何故ククトニアンであったか、その理由は明白です。彼らがククトニアンであるのは、最終的に「13」という物語から退場しなければいけなかったからです。もし彼らが地球人であれば、双子の赤ちゃんだけが誰かに保護された末に13人だけがそのまま旅を続ける…という展開はさすがにあり得ないからです。
そして、これと同じことはホルテとルービンにも言えました。難民保護組織の一員である彼女達がもし地球人であったなら、子供達はあっさりと彼女達に身柄を預けていたでしょう(このあとの第9話におけるクレアとホルテの会談シーンで、ラピスとククト軍の関係をクレアが入念に問い詰めるのは、そのあたりが理由であると思われます)。従って赤ちゃん、ホルテ、ルービン、両者はいずれもククトニアンである必然性があったことになります。
しかし、ここで大きな問題が2つ生じることになります。ひとつはカチュアの存在です。オリジナルシリーズではカチュアが乗組員唯一のククトニアンであることにより、さまざまなエピソードが描かれました。しかしそれは彼女が「唯一の」ククトニアンだったために起こったエピソードであり、もし13人のうち3人、4人とククトニアンがいたのなら起こりえないエピソードばかりでした。カチュアは同じククトニアンであるホルテとルービン、そして双子の赤ちゃんに対して他の子供達とは違った感情を抱いて当然ですし、ホルテとルービンにしてみても、カチュア、そして双子の赤ちゃんに対して他の子供達とは異なる対応をするのが自然かと思われます(限りなく自分の意志を持たない双子の赤ちゃんはともかくとして)。
そしてもうひとつの問題点は、彼らククトニアンが大挙して画面に登場することにより、オリジナルシリーズにあったミステリアス感が完全に失われてしまったことです。「13」でたまたま呼称が用いられていないとはいえ、彼らは「アストロゲーター」に他なりません。ククトニアン=未知なる存在という大原則が崩れてしまったことによって、この第1クールは「地球人とククトニアンのドラマ」ではなく、単なる「敵と味方のドラマ」となってしまいます。そこにはもはや敵が異星人でなければならないという必然性は存在していません。このあたりのリスクについては制作側の方もよく分かっておられたと思うのですが、結局視聴者を納得させるだけの演出がなされないまま、物語が進行する形となってしまったのは残念な限りです。
■今回は子供達(特に年長組)がかなり等身を増して作画されており、シリアスな演出に一役買っていました。特に今シリーズでその崩れぶりが目立っているスコットは、ここ2話ほどは作画・演出ともにオリジナルシリーズのキャラクターに近いふるまいを見せています(その分優柔不断さが前面に出てしまうのは演出上いたしかたないところでしょう)。あと余談ながら、彼がブリッジでケンツから通信チップを取り上げるシーンは一瞬ながらすさまじいオーバーアクションをしています。一度コマ送りで見て下さい。
■この回は全般的にシリアスな展開でしたが、唯一そうでなかったのは、砲撃のショックでよろめいたスコットがホルテの胸元に顔を埋めてしまうというシーンでした。ケンツとルービンの関係とは異なり、ホルテとスコットはその後特に「異性」を意識させる関係があるわけではなく、このシーンは全く意味がないものでした。それにしてもホルテの靴が上履きみたいに見えるのは私だけでしょうか。
■ルルド艦の格納庫でARVブラグが出撃に向けて整備された後、ククトニアンの乗員が搭乗する様子が描かれました。ククト側の兵器の整備・出撃シーンが描かれたのは今回が初めてではないでしょうか。ここからも「13」というシリーズの視点が子供達中心ではなくなってきていることがはっきり分かります。
■本篇のセリフにあった「C65」室、「F95」ステーションというのは何か元ネタがあるのではないかと思い、文中でも正確に表記しておきました。実際には何もなかったんですが、いかにもそれらしいネーミングではあります。
■ルービンはもともと軍属だったという設定があり、この第8話冒頭の小型艇でルルド艦に向かうシーンでの操縦テクニックにその片鱗を見ることができます。もっともそれはバーツの「軍隊経験有り、だな」というセリフでしか語られず、本篇の展開と何ら有機的に結びつかなかったのは少々残念です。もし劇中でククト軍の誰か(例えばバリル)と面識があるといった描写があれば、もう少し世界観に広がりをもたせることができたと思うのですが。彼女だけでなく「13」で登場したキャラクターについては、視聴者が感情移入できるところまで人物像が描かれず、肝心のクライマックスが薄っぺらいものになってしまった印象は否めません。彼らが今の組織に身を投じることになった背景をちょっと描くだけでだいぶ印象は変わっていたと思うのですが…。
■ルービンとルルドの会談シーンとその前後については、両者の態度に非常にぎこちないものが感じられます。特に最初の会談が終わった後、なぜルービンが怒りの表情を浮かべているのかはどうも意味がよく分かりません。「部下に伝えてきます」と言って退席したたままルルドが戻ってこないことに対する怒りなのか、それともルルドが裏で総攻撃の準備をしていることを察知しての怒りなのか…何が伏線になっているのでしょう?
■軟禁される直前、ホルテが子供達の中にククトニアンであるカチュアが混じっていることに気付きます。ここまで双子やラピスメンバーの乗船に際し、ククトニアンでありながらそれらしい演出が一切なされなかったカチュアですが、実はこの演出でさえもシナリオの段階では存在せず、演出・絵コンテの段階で追加されたシーンなのだそうです。そのせいもあってかこのシーンはその後の伏線になるわけでもなく、前後の話を通して見た時ポツンと浮いたシーンになってしまっています。

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