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第43話
「奇襲作戦開始!」

1984年08月18日放映


両親に会えなかった子供達はジェダの基地へ戻り、地球軍とのコンタクトを目指す彼らのシャトルに同乗してククト星を脱出することになった。追撃を阻止するためククト軍基地に奇襲をかけるロディ達。その最中にスコットは奪われたトレーラーを見つけて荷物を取り返そうとするが、任務を解かれたミューラアとばったり出会ってしまう。しかしミューラアは彼に危害を加えようとせず、荷物や石板は無事に子供達の手元に戻った。子供達は大破したジェイナスを眼下に見ながら、ジェダのシャトルで宇宙へと飛び立っていった。

のっけから辛辣なコメントで恐縮ですが、この回はおそらくバイファムというシリーズを通して最悪のエピソードと言えるでしょう。いかに身を守るためとは言え、子供達が敵基地に先制攻撃を仕掛けるという展開は彼らの旅をずっと見守って来たファンをなんともやるせない気持ちにさせられます。パイロット搭乗前に次々に撃破されていくARVを目撃したマキの「なんだか複雑な気持ち…」という呟きは視聴者の、さらにはこのようなエピソードを制作せざるを得なかったスタッフの心境を代弁したものだと言えます。「毎回必ず戦闘シーンを出すこと」というスポンサーのお達しがあった以上は仕方のないシチュエーションとはいえ、当時本放送を見ていた私もあまりの展開に「ああ、とうとう来るとこまで来てしまった…」と嘆いたものです。一応これらの制作事情はアニメ誌などで知ってはいたのですが、それにしても最終回まであと4話のところまで粘っておきながら、ねぇ。

ただ、このことは制作サイドもよく分かっていたはずで、少しでも物語としてのバランスを取る(もしくは戦闘シーンの印象を薄める)ために様々な工夫を試みています。まずひとつは、子供達が先制攻撃をしなければいけなくなった理由付けを劇中で徹底して行ったことです。バーツをはじめとする子供たちやジェダのセリフは少々説明臭いと言わざるを得ませんが、ないよりはマシでしょうね。
もうひとつはマキとケンツの「誰が一番好き?」の会話に始まり、いわゆる「小ネタ」を大量に投入したことです。その中でも目立ったのは何と言っても終盤のスコットでしょう。ククト軍基地の外れに自分達のトラックを発見して航海日誌を取りに向かったスコットは、そこで任務を解かれたミューラアにバッタリ遭遇してしまいます。焦ったスコットが身を守るために手にしたのはなんとトイレの吸盤棒。彼はトイレの吸盤棒でミューラアを威嚇するという行動に出ます(これを「威嚇」と表現していいのかどうかはなんとも不明)。エロ本は第39話と次の第44話で登場するのでこの回では禁じ手であり(※もっとも一瞬だけ登場していますが)、それなら何か別の小道具で…という、演出としてはかなりアドリブめいたものではありますが、それでも当時の視聴者に対するインパクトは絶大でした。その後の「足でハンドル操作」「バーツ達への見栄張り発言」も含め、先の戦闘シーンの印象を薄めるには絶好のエピソードだったと言えるでしょう。ある意味スコットが人身御供となってしまったことは否定できませんが、このようなことが許されるのもここまでの物語でキャラクターを丁寧に描いてきたひとつの成果であり、また彼らキャラクターの活躍?がともすればバイファムとして許されない展開になりかけたこの回を救ったといえます。

そしてこの回のトリを務めたのがラストシーンで登場するジェイナスです。上空を通過するジェダのシャトルを敵の接近と解釈し、船内に警告を発するボギー。彼女(?)のけなげな姿は視聴者である私達に何とも言えない思いを抱かせます。このシーンがあったからこそ、この第43話は前後の回を繋ぐ物語として成立していると言えます。
そして子供達のククト星での旅は終りを告げ、彼らは再び大宇宙へ旅立ちます。

■前述の通り、この回の戦闘シーンはあってはならないものです。しかし、このような展開を最終話間近であるこの第43話まで出さずに引っ張ったスタッフの方の努力は並大抵のものではなかったと思います。もしもこのような展開がククト星篇に入ってからのごく早い時機に登場していた場合、視聴者はバイファムという物語をその時点で見捨てていたかもしれません。最後の最後でこのようなシーンを描かざるを得なかったことは非常に残念ではありますが、ここはスタッフの方々の最大限の努力であるとして好意的に解釈しておきたいところです。
■リベラリスト達が「地球人にコンタクトを取る」ことが最終回に向けてのキーポイントになることが、この回でようやく明示されます。これも第42話に続く「着地点探し」の一環であると言えるでしょう。
■クレアの「私だって銃の撃ち方ぐらい知ってるわ」というセリフは、第7話でのケイトのセリフとまったく同じものです。第41話のフレッドと同じ論法で行くと「クレアはケイトに肩を並べるところまで成長した」というところでしょうか。いずれにせよ芸が細かいですねぇ。
■この回ミューラアが意外な行動(=航海日誌探しに協力)を見せたことは視聴者にとって「おや?」と思わせるのに十分な展開でした。このシーンは第44話ラストでのミューラアの行動に深みを出すことに大いに貢献しています。その意味ではこの第43話の主役は実はミューラアその人であったと言えるのかもしれません。


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