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第44話
「大宇宙のうた」

1984年08月25日放映


ククト星を脱出したシャトルは地球軍との通信に成功し、合流地点に向かうことになった。一方シャトルを追撃するアイゼルの艦隊からは密航していたミューラアがロディに決戦を挑んできた。その勢いに押されていくロディだが、その時ククト軍が後方からミューラアもろとも攻撃を加えてきた。ミューラアは自分の生き方を悔やみつつ、カチュアにメッセージを残して反転し、アイゼル艦隊に特攻していった。

サブタイトルが何とも秀逸な回です。まあ、この「大宇宙のうた」というサブタイトルを見る限りフツーの話じゃないのは本篇を見る前に分かっていたと言えるでしょう。最終回のタイトルでもおかしくないですもんね、これ。
しかし、この回はある意味では「最終回」であると言えないこともありません。この回はミューラア最後の登場となる回、つまり第3クールから描かれてきたミューラア中心の物語の最終回であり、同時にカチュアが自らの進路を決定するに至った大きなポイントの回であるからです。

…リフレイドストーンを奪回してククト軍基地に戻ったものの結果的に解任され、第一線から外される形となったミューラア。彼は密航する形でアイゼルの戦闘艦に乗り込み、子供達の乗ったシャトルを追撃します。地球軍とのコンタクトを前にククト軍の急襲を受けるシャトル。バイファムで出撃してなんとかこれを退けたロディ達ですが、そこにアイゼルから出撃を許可されたミューラアが登場します。バイファムに1対1の戦いを挑むミューラア。リニアガンを失ったバイファムは鉄パイプを手にし、ミューラア操るデュラッヘとの白兵戦に望みます。
その戦いの中「ククトニアンにとっては地球軍こそが侵略者である」という番組当初の善悪逆転の構造がミューラアの口から語られます。物語がメカアクション重視となった第3クール以降ほとんど表に出ることがなくなっていたこの図式ですが、このシーンでの「われわれククトニアンは、貴様たちの母星地球を侵略する意志はないのだ」という彼のセリフにより、ようやくロディやスコット、そして視聴者はこの戦いが双方の誤解の基に成り立っていることを知ります。この回自体は冒頭から子供達の描写がメインとなっていますが、この前後のシーンを見る限りあくまでハードなテーマを描いた回であり、制作側の強烈なメッセージが込められているのは明白です。
そして背後からの突然の砲撃によってアイゼルの策略に気付いたミューラアは、アイゼルの戦闘艦に特攻しながら無線でカチュアに語りかけます。地球人とククトニアンのハーフであるという現実を受け止め、自らと似た境遇であるカチュアにメッセージを送るミューラア。彼はカチュアにこう言います。「俺のような生き方はするな」と…。
このシーンは第41話のラストシーンと密接にリンクしています。第41話でかばい合うロディとカチュアを見逃さざるを得なかったミューラア。ロディに対しては決して弱みを見せたくないという彼の意地?が、このシーンの「この勝負預けたぞ」というセリフに見て取れます。そしてその一方、両親を探す旅を続けているカチュアに向けて彼が送ったメッセージは、最終回での彼女の進路を決める決定的な役割を果たすことになるのでした。

どこからともなく聞こえてくるミューラアの口笛。大宇宙の彼方に消えていく光点。ロディ達はただそれをじっと見つめていることしかできませんでした。

■ここまでの物語の展開的からすると、ミューラアはここで死ぬしかなかったのは事実です。「死ぬしかなかった」と言うとさすがにちょっと言い過ぎ(=そもそも死んだとは断定できない…というか死んでいない)なのかもしれませんが、少なくとも彼がロディ達の側に寝返ることは考えられませんし、ましてやバイファムに勝つことはあり得ない。この回の展開は(展開そのものが持っていた意味合いは別として)良くも悪くもミエミエだったと言えるでしょう。
しかし、もともと「バイファム」という物語の当初の構想に存在せず、一歩間違えば完全に浮いていたかもしれないミューラアをここまで物語のテーマとリンクさせた演出はさすがの一言です。ククトニアンと地球人のハーフという設定を最大限生かし、バトンをカチュアに渡して退場していったミューラア。この第44話のラストシーンによって、彼はバイファムという物語に欠かせない存在になったと言えるのではないでしょうか。
■結末に向かう物語の中で、これまでの物語に登場してきたアイテムや小道具が再び登場してきます。シャトルの窓から見える「死の星」となったタウト星、そしてククト星から持ち出した荷物の整理をする最中に第1話のフレッドおもらしシーンを思い出すロディ。ケイトのバンダナ、エロ本、またギャラクレーとの会話に名前が出てくるクレアの父バーブランド大佐。これらが再び登場してきたことからも、最終回が間近に迫っていることが実感させられます。
その中でもポイントであるのはケイトのバンダナです。最終回までに何らかの形でケイトについて言及しなければならなかったのは物語の展開上必然であると言えます。むしろ物語からいったん引いて子供達の旅を振り返った時、ケイトの名前が第2〜3クールに登場しなかったことのほうがある意味で不自然ではあります(特にロディについては旅の途中で何度か彼女を思い出すシーンがあってもよかったのでは?と思わないでもありません)。ここまで彼女が省みられなかったのは物語がそれだけパワーを持って突っ走ってきていた証であり、13人のキャラクターが強烈な個性を放っていた証であると言えるのかもしれません。ここでケイトの名が再び登場したことは、制作サイドがここで物語をあらためて見つめなおし、まとめに入った事の何よりの証であると言えそうです。
■ミューラアはロディに「われわれククトニアンは、貴様たちの母星地球を侵略する意志はないのだ」と語ります。彼がこのセリフを口にしたのは彼以外にこのセリフを喋れるだけのキャラがいなかったためですが、この第44話の中で唯一前後に繋がりのない不可解なシーンになってしまいました。このセリフがあったからこそ次の「地球人侵略者を壊滅云々」というオタのセリフが生きたのも事実ですが、最後の最後でミューラアの立場を破綻させかねないセリフを出さざるを得なかったことは少し残念です。消去法でもこのセリフを言えるのが彼しかいないことも事実なのですが…。
■ペンタイプの入力機器を使って両親の似顔絵を描くマルロとルチーナ。しつこいようですが、彼らの画力はなかなかのものです。
■両親の似顔絵を見ながらこれからのことを考えるカチュア、そして大事そうに似顔絵を鞄にしまい込むジミー。第42〜43話に続く、最終回への重要な伏線です。もっともこのシーンのジミーにそういったそぶりがないのもまた事実なのですが…。
■意外と目立ちませんがこの回の戦闘シーンは珠玉の出来。ミューラアとバイファムの戦い以外にも、ギャドルとルザルガの接近戦、ジェダのシャトルに向かったルザルガを追撃するバイファム。いずれもこの回の絵コンテ・演出をそれぞれ担当された藤原良二氏・関田修氏の「ガンダムコンビ」による珠玉のシーン…と言い切ってしまいましょう。特にデュラッヘとバイファムの戦いの前を横切る残骸のシーンなどは、同じ戦闘シーンであってもこれまでのものとは全く趣が違っていることに注目したいところです。
■ミューラアが密航してきたシーンや何故か再登場したデュラッヘなど細かい部分のディティールが一切無視されているのは次の第45話同様ご愛嬌というところ。宇宙空間でスリングパニアーを装着する必要性についても敢えて言わないでおきましょう。
■ご存知の通り、ミューラアはこのあとのOVA4巻で「一発食らったあと病院船に収容されていた」ことになってしまいました。やたらと人が死ぬアニメに比べればこの展開は良心的だったのかもしれません。しかしここまでの第3〜4クールの展開とこの第44話に託されたメッセージ性を考えた時、彼にはやはり「生死不明」のまま物語からお引取り頂きたかった…と思っているのはきっと私だけではないと思います。


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