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第33話
「さよなら愛しの船」

1984年06月09日放映


仲間と再会し喜ぶ子供達。しかし追っ手が迫っており、大破したジェイナスがミューラアの部隊に発見されるのは時間の問題と思われた。遺跡と同じ放射線を発するダミーが時間を稼いでいる間に出発準備をすすめる子供達。お別れパーティーが行われた翌朝、子供達は遺跡をトレーラーに積み込み、ジェイナスとボギーに別れを告げて両親の収容所を探す長い旅に出発した。

この回はククト星で13人が揃った最初の回であり、同時に彼らとジェイナスの別れを描いたエピソードです。戦闘シーンこそあるもののどちらかというと状況説明的な描写が多く、あくまで次の第34話からのステップの回であるという見方が正しそうです。

大気圏突入時にジェイナスと別行動となっていた子供達はようやく再会を果たします。兄と再会してフレッドが泣きじゃくるシーンは、大気圏突入直前の第30話の展開とあいまって非常に感動的なものです。カチュアやケンツが親しい仲間との再会を喜び合っている間、ククト星突入時から今までの状況についてスコット達から説明を受けるロディ(+視聴者)。実はもう追っ手が迫っており、ロディ達と合流でき次第ジェイナスから離れる準備をしていた、とスコットは語ります。

そしてそのジェイナスを探すミューラア。彼はバーツが仕掛けたダミーをひとつずつ潰し、確実にジェイナスに迫りつつありました。報告を受けた上官は彼を叱責します。「君はまさか手心を加えているわけじゃあるまいね?」ここで初めてミューラアの立場、そして「奴らの血が半分混じっている」という生い立ちが明らかになります。単なる「ロディの敵役」と思われていたミューラアの出生の秘密が明らかになったことで、これまでの子供達の視点からの物語だけではなく、ミューラアを軸とした新たな物語が成立する土壌ができたことになります。このシーンはバイファムという物語が新しい展開に入った象徴的な場面だったといえそうです。

その頃、子供達はロディの発案による地上戦用の「盾」をすすめていました。ちょうどその最中に敵部隊が来襲し戦闘に突入しますが、ジェイナスの装甲の一部を利用して作られたばかりの盾が早速威力を発揮し、ロディ達はARVを撃退します。なんとか退けはしたものの、敵が身近に迫っていることを痛感したスコット達。彼らは翌朝ジェイナスを離れることを決意し、ジェイナスとの「お別れパーティー」を開きます。席上つとめて明るく振舞う彼らではありますが、それはここまで13人と行動を共にしてきたジェイナスとボギーに別れを告げなければならない寂しさ、あてのない旅へと出発する悲壮感を覆い隠すための「明るさ」だったのかもしれません。別れを告げるロディ達への「皆さんの楽しい旅行の無事を祈っています」というボギーの健気なセリフにはホロリとさせられます。コンピューターであるボギーも子供達の仲間であり、バイファム世界を支える重要なキャラクターの一人だったのだということを再認識させられたシーンでした。

そして翌朝、ついにその時はやってきました。朝焼けの中車両とRVに乗り、ジェイナスを後にする13人。後ろを振り返る子供達の中で、スコットはひとり前を見据えたまま車を運転します。しかし彼の脳裏にもおそらく他の子供達と同じ光景が浮かんでいたことでしょう。ジェイナス艦内で過ごした日々、数々の思い出、そして誰もいなくなったブリッジ…。バーツの「あばよ、ボギー」という言葉と共に、ククト星での子供達の新たな旅が始まります。

■私は放映当時、ジェイナスはククトの大気圏に突入しはしたものの、おそらく誰かの手によって修理された後、再び子供達と共にククトから旅立つのではないか?と思いながらここまでの第30〜32話を観ていました。それだけにこの回の「みじめな姿になっちまった」ジェイナスの姿には少なからずショックを受けたものです。傷だらけになった外壁、傾いた円周通路、そしてブリッジ…。13人がジェイナスと共に生活していた期間は実はそれほど長いわけではないのですが、この頃になると彼ら13人はジェイナスの中で生活していてこそ彼らなのである…という気がしていたものです。ジェイナスと子供達の別れはこの回のラストシーンで叙情感たっぷりに描かれることになりますが、それでもジェイナス艦内という生活空間を失ったことで、バイファムの物語は、そして子供達の日常描写に関しては第34話以降非常に不安定な状態に陥ってしまいます。その後第39話でジェダに保護され彼らのアジトに迎え入れられたことにより子供達の「居場所」の問題は解決されるのですが、新作「13」でもジェイナス艦内でのエピソードが物語の中心となるなど、やはりジェイナス(とボギー)はバイファム世界に欠かせないキャラクターであることは随所で証明されています。
■この回からはバイファムという物語を語る「視点」に重大な変化が生じています。ここまで子供達の視点を中心に描かれてきた物語に、ククト側から見た視点が加わったのです。これは地球人との混血であるミューラアを描くための措置ですが、作品のバランスはやはりシリーズ前半とは大きく変化してしまう結果となりました。スタッフも苦心の策だったのでしょうが、この第33〜34話についてはジェイナスとの別れと併せ、バイファムという物語の大きな転換点であったことは間違いありません。
■カチュアのシャワーシーンが放映当時話題となりました(何故更衣室の中にジミーがいるんだ?というツッコミはなし)。またロディにビールを薦めるバーツ、そして実際に酒を飲んで酔っ払うケンツとジミーなど、放映時間帯がゴールデンタイムであれば問題になっていたであろうシーンが続出します。いや、そうでなくても問題なんでしょうけどね。
■冒頭でミューラアがダミーのVRCを捜索する際のRVのアクションは作画に力が入っており、メカの動きだけに注目するとこのククト星篇でも1、2を争う出来となっています(おそらく全篇を通じてギブルがこれだけかっこよく動いているシーンも珍しいはずです。もっともBパートのそれはいつもと変わらない戦闘シーンですが…)。また、サブタイトル前にバイファムから降りるロディを下のアングルから捉えたカット、中盤金槌で指をたたいて飛び上がるケンツのカット、さらにラストシーンの朝焼けなど、カット割りの構図や風景に印象的なシーンが目立つのもこの第33話の特色です。
■この回でロディとバーツが製作するRV用の盾は終盤までつづけて使用されます。スポンサーの要望的な意味合いが大きいこの「盾」ですが、これを作ることをひとつのエピソードとして生かしてしまう発想はユニークです(外宇宙練習艦の装甲=いかにも頑丈そう、という見た目の分かりやすさもなかなか気が利いています)。なおRV用の盾を作るというロディの発想は特に伏線があったわけでもなく、いまいち分かりにくい展開ではありますが、敵の攻撃を防ぐメリットうんぬんよりも、この回で離れ離れになるジェイナスの「形見」を身に付けているという精神的な部分もあったのではないでしょうか。本篇に直接そういった描写はなかったわけですが、僕たちはジェイナス(の装甲の一部)に守られている…というお守り的な一面が描かれていれば、気が利いた演出としてのちの物語に生きてきたのではないかと思います。いかがでしょうか。
■この回の盾をはじめとして、子供達が新しい兵器・装備を入手する際にはさまざまな差異化を図ろうとした跡が見られます。例えばこんな風にです。
・トゥランファム→地球軍からの補給
・スリングパニアー→地球軍から盗む
・RV用の盾→ジェイナスの外壁から自作
同じパターンを2度使うのはさすがに抵抗があったのか、それぞれ別の入手方法を試みられる結果となっています。ちなみに玩具ベースの話では、この回製作された盾は、当時発売されたプラモデル(スリングパニアー装備型)には付属していませんが、その後発売されたハイコンプリートモデルにはちゃんと付属していました。このことからも、スリングパニアーの設定が起こされた時点では用意されておらず、その後ククト星に下りる時点ではじめて決められた装備であったことがわかります。
■ククト軍が遺跡を探しているのを知っていながら、その遺跡をわざわざトラックに積み込んで共に旅を続ける…という展開が誰の目から見ても不条理であることは間違いありません。この遺跡=リフレイドストーンの扱いについてはスタッフも相当困っていたようで、この後第35〜38話ではその存在が完全に無視され、そして第41話でミューラアに持ち逃げされた挙句、第42話ではククト軍の「力線に対抗できるシールドの完成」によって無用の長物と化してしまいます。もっとも最終回できちんとフォローされることで物語のキーの役目だけは全うしたわけですが、第31話ではロディ達が森の中で遺跡を発見するシーンまでが描かれたわけですから、もう少し扱い方に配慮があってもよかったのでは?と思わないでもありません。この辺の展開はその後悪い意味で「13」第2クールに引き継がれることになります。
■スコットがブリッジで持ち出す品の確認を真顔でしているシーンがありますが、よくよく考えるとこの時ちゃっかりエロ本も持ち出してるんですよね。演技派だなあ。


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