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第34話
「ククトを探索せよ」

1984年06月16日放映


ついにジェイナスを発見したミューラアの部隊。しかし子供達はすでに出発した後であった。一方その子供達は旅の途中で廃墟の町を発見。トゥランファムで偵察に出たバーツはそこでマキに自分の母親のことを語り始める。襲来した敵の新型兵器フローティングタンクの攻撃で彼らは絶体絶命のピンチに陥るが、駆けつけたロディの働きで九死に一生を得ることができた。

導入篇と言える第31〜33話の後を受けてスタートした「ククト星篇」。この第34話はククト星における子供達の「地上漂流」の第1回目と言えるわけですが、この回はシリーズ全体の中でも非常に特殊な構造を持っており、他のエピソードとは一線を画する作りになっています。冒頭サブタイトル部に流れる「THE ASTRO ENEMY」や字幕スーパーといった従来見られなかった演出に加え、Bパート以降は登場するキャラクターを大胆に絞り込むことにより、ドラマ性により重点を置いた作りになっています。

さて、この回の冒頭ではついにミューラアの部隊がジェイナスを発見します。しかし子供達は前日に出発しており、目的とするリフレイドストーンを発見できなかったミューラアは無人のブリッジでボギーから情報を聞き出そうとします。機転を利かせたボギーの働きで子供達とリフレイドストーンの所在はミューラアに知れずじまいとなりますが、執拗なミューラアの追撃に子供達は警戒を強めます。
一方ジェイナスを離れ、野営を繰り返しながら両親達が囚われている(であろう)収容所を探す旅に出た13人。ほんの僅かの手がかりしか持たない彼らの旅は、まさにあてのないものだったと言えます。バイファム放映開始時のストーリー展開からは思いもよらない劇的な変化。マキが口にした「まさか車の運転までさせられるとは思わなかったね」というセリフは彼女だけのものではなく、当時番組を見ていた視聴者や制作スタッフの気持ちを代弁していたのかもしれません。

そしてその後、バーツとマキ、そしてロディが偵察に出発します。トゥランファムで廃墟の街に降り立ったバーツとマキ。ひとり取り残されて心細い思いをしたマキは自分に意地悪をしたバーツに対して思わず本心を見せます。そんな彼女に、「おふくろ」と呼べないままの母親の話を聞かせるバーツ。この第34話の序盤で両親にいつ会えるか尋ねるマルロ達に「そいつは約束出来ねえな」とキッパリ言い切ったことがここでのマキとのやりとりの伏線になっている訳ですが、バーツの「らしさ」が十二分に発揮された名シーンと言えるでしょう。決してそれまで彼らが築き上げてきたキャラクターを否定せずに彼らの生き方に1本の太い芯を通す、このようなドラマを生み出すことは本来シナリオライターの方にとっても容易ではないはずです。過去の出来事に縛られず元気に画面の中を動き回っている13人ですが、普段の行動には表れないだけで、本当はこんな悩みや苦しみがあるんだよ…という強い訴えかけは、視聴者がキャラクターへの思い入れを強めるのに十分な演出だったと言えるでしょう。特にバーツの場合主人公のロディと同い年であるわけですが、このエピソードによって彼はロディとは別の意味での魅力を引き出すことに成功したと言えそうです。そして一方本篇中ではどちらかというと男勝りなキャラクターとして描かれてきたマキが見せた一連の行動は、キャラの厚みを広げた名エピソードとしてファンの記憶にとどめられることになります。
第31話以降のククト星篇ではそれぞれのカップルの距離が接近していく様子が順次描かれるわけですが、この回のバーツとマキの物語は彼ら二人の年齢に相応しい(あくまで13人の中での年齢の高さが、という意味ですが)大人のドラマを見せてくれました。何よりも、バーツとマキがこれらのシーンの後もさっぱりとした付き合いを続ける、彼ら2人に当時人気が集まったのはまさにこの爽やかさにあったのではないでしょうか。

その後敵に急襲されたバーツとマキのもとに駆けつけ、新型フローティングタンクとARVをなんとか撃退したロディ。彼らはククト星での旅が苦難に満ちたものになることを予感するのでした。

■前述の通り、この回は中盤以降登場人物がバーツ・マキ・ロディの3人に絞られます。ロディが戦闘シーンのための登場だったことを考えると、事実上この回はバーツとマキのためのエピソードだったと言えます。13人が揃っていないラストシーンもこの前後の回からすると珍しく、雰囲気的には登場人物がロディ・バーツ・ケイトの3人に絞って描かれた第6話に近いものを感じさせられます(舞台が地上ということもあってか、ラストシーンなどは第8話に非常に似ています)。
■この回を担当されたライターの伊東恒久氏は、どちらかというとバイファムの物語の中でも年長組をメインとしたドラマを得意とされています(というか年少組の連中に人生を長々と語らせるわけにいきませんしね)。この回のほか、クレアを中心にクライマックスが描かれた第42話「パパ! 一瞬の再会」なども氏によるもの。
■この回はククト星における子供達の旅のスタートの回ということで、以降の回の伏線が多くちりばめられています。「ばってん印の飛行機」とマルロが表現したククト政府軍のフローティングタンクが初登場する一方、リベラリストの実質的な指導者であるサライダ博士とデュボア女史がジェダとともに初登場。機動兵器(ギャドル)を始めとした戦力の編成に着手している様子が描かれますが、このあたりは、「これからはククト側にもカメラが入りますよ」という制作サイドの宣言だったとも受け取れる演出です。また、次の第35話から4回にわたって13人の旅に加わるククトニアンの子供達(ガイ、ユウ、メル、ケイ)がこの回初登場。出番はほんの一瞬でしたが、次の第35話をスムーズに見せるための有効なシーンだったと言えます。
■冒頭でBGMとして使用される「THE ASTRO ENEMY」や、ミューラアの部隊のククト語による会話に伴って画面に出る字幕(バイファム本篇中で字幕が表示されるのはこの回のみ)は、このククト星篇の中でも洋画的な独特の雰囲気を醸し出しています。バーツの回想シーンでのイラストといい「バイファム」の物語の中でビジュアル的な部分をここまで前面に押し出したのは非常に珍しいことです。また「光」と「影」を意識的に使ったバーツとマキの会話のシーンはどちらかというと非アニメ的なライティングで、独特の効果を生み出しています。
■この回のバーツの回想シーンの作画は「ダンバイン」などのキャラクターデザインで知られる湖川友謙氏。その重厚なイラストはこの回のひとつのポイントとして視聴者の印象に残るものになりました。なおこの回の作画監督は村中博美氏ですが、この回がバイファム初参加ということもあってか、設定資料そっくりの絵が本篇のあちこちに散見されます。ま、ご愛嬌といったところでしょうか。
■ボギーが出す「AHO」「BAKA」のメッセージは非常にユニーク。ウィットに富んだ回答はこの回のひとつの見どころと言えます。
■バーツの父を演じた声優さんは富田耕生氏。またクレジットには表記されていませんが、バーツの母ミレーヌはおそらくジミー役の千々松幸子さんであると思われます。


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