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第14話
「ぼくらの選択 タウト星をめざせ!」

1998年07月04日放映


ルルド艦の脅威が去った子供達は、ラピスの母艦キエフ号と合流する。子供達がラピスの力を借りてタウト星の情報を仕入れようとしている時、ククト軍情報部が事情聴収のためにこちらに向かっているという情報が入る。子供達はククト軍到着前に自力でタウト星に向かうことを決め、ルービンをキエフに送り返すために一芝居打つ。全てを悟ったルービンはジェイナスを離脱し、再び13人だけになったジェイナスはキエフから離れて新たな目的地へ旅立っていくのだった。

ホルテが視聴者の分身であることは既に述べた通りです。ではルービンは一体どのような役割を担っていたのでしょうか。リーダー格でありながらも随所で天然ぶりを発揮するホルテのパートナーとして、彼女は劇中で行動力のあるところを披露してきました。そういった部分からも、彼女は単純にホルテと対比するいわば「実行派」のキャラクターとしてこの「13」というシリーズに登場したものだと思われます。
しかし、そんな彼女が担っていた本当の「役割」は、「双子の赤ちゃん&ラピス篇」のクライマックスであるこの第13〜14話の彼女の行動にはっきりと表れることになりました。第13話、自分の理想を追い現実に対処しきれていないホルテに対し、子供達を守るために中立組織の一員であることを捨て、自ら武器を取るルービン。制止しようとするホルテに彼女は言います。「この状況で、戦わずに命を守る方法があれば教えてください!」。彼女のその姿には、かつてオリジナルシリーズで子供達を守るために死んでいった「立派な大人達」の姿がダブって見えます。そしてこの「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の完結篇に相当するこの第14話、子供達が自らの意志でタウト星に向かうことを選択したのを悟ったルービンは、彼らの「嘘」を見抜きながらもその意志を尊重するため自ら身を引く道を選ぶことになります。

…ルルド艦が去り、双子の赤ちゃんとも別れた子供達は、ホルテ達が所属するラピスの母艦キエフ号と合流することになります。赤ちゃんが無事に母親と出逢えたという吉報が届く中、スコットとクレアを始めとする子供達がホルテ達と共にキエフ号に乗り移り、両親がいるタウト星の情報を仕入れようとします。キエフ号艦内で久しぶりに羽根を伸ばす子供達。
ところがそこにククト軍情報部が事情聴収のためにキエフ号に向かっているという情報が入り、子供達は動揺します。ホルテ達に迷惑を掛けたくない子供達は、ククト軍が到着する前にキエフを離脱し、当初の予定通りに自力でタウト星に向かうことを決めます。そのためには、ひとりジェイナスに残っているルービンをどうにかしてキエフ号に送り返す必要がありました。子供達が取った方法は、キエフ号との連絡が途絶えた事を装い、ルービンに調べに行ってほしいと要請するというものでした。

見え見えの演技だったにもかかわらず、子供達の心情を悟って自らキエフに戻ることを選択するルービン。彼女はケンツに呼び止められて初めて、彼らのお芝居を見抜いていたことを告白します。きっとケンツに呼び止められなければ、彼女はきっと誰とも言葉を交わさないままジェイナスを去っていたでしょう。彼らの「タウト星に行きたい」という意志を尊重するために、(たとえ短期間であっても)命をかけて守った船から、子供達から潔く身を引く。何が何でも彼らを収容所で保護しようと考え、結果的にすれ違いを繰り返すだけだったホルテと異なり、ルービンは自ら身を引くことによって、子供達を「保護」する役割をしっかりと果たし終えたのです。彼女の自己主張らしいセリフは、ケンツに語った「時々は、思い出してね。」という一言だけでした。あくまで控えめに子供達を守り抜くことを信条とした彼女のこの姿には、オリジナルシリーズで子供達を守ってきた「立派な大人達」の姿が投影されたものだと言えます。
なかなか言葉が見つからない彼に自分のネックレスをかけてやるルービン。彼女はジェイナスを後にし、残されたケンツはブリッジで去りゆく小型艇をじっと見つめています。そんな彼の心境にいち早く気付くシャロン。この回の冒頭、自らの心の拠り所であった赤ちゃんを失って落ち込んでいるところをケンツに励まされたシャロンが、自分と同じ立場となったケンツを気遣います。

そして再び13人だけになったジェイナスはタウト星に向け発進します。スコット達はホルテに対し、自分達の勝手を許してほしいと通信で告げます。彼らひとりひとりのメッセージに耳を傾けるうち、これまで子供達を保護する対象として扱ってきた自分の行動が間違いであったことに気付くホルテ。この「双子の赤ちゃん&ラピス篇」は、その当初から明らかにホルテの視点を中心に描かれていました。しかしその一方で、この「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の最後となるエピソードがルービンによって演出されたことは、この「双子の赤ちゃん&ラピス篇」がもう一方では実に見事にバイファムの物語の主題に沿っていたことを物語っているのではないかと思います。ルービンが最後に語った「あの子達は、私達よりもずっとたくましい」というセリフは、彼ら子供達を一人前であると認めた彼女だからこそ口にできた言葉なのではないでしょうか。そして、このシーンがあったからこそラストシーンでのホルテの言葉が生きたことは疑う余地がありません。

子供達の「ぼくらの選択」を目の当たりにし、すべてを理解したホルテ。彼女からの励ましの言葉を胸に、子供達は新たな目的地へ旅立っていきました。

■ホルテが視聴者の分身であったことは、この回のラストシーンが彼女の視点で締めくくられたことからも明らかです。自分達で歩む道を選択し、ホルテ達のもとを離れて旅立っていく13人。ホルテは心の中でこう呟きます。「私は間違っていたかもしれない…保護することがあの子達のためになるものだとばかり…」。この言葉に辿り着くまでの経緯は、パートナーであるルービンとはまさに対照的でした。特にホルテを差し置く形でルービンがこの回のクライマックスを演出することになったのは皮肉以外の何者でもないでしょう。しかし、ここにきてようやくホルテも彼女なりに子供達を認め、彼らの新しい出発を祝福することができたのです。全てを理解した彼女が13人の子供達に告げた「ありがとう、みんな。私もみんなに負けないくらい、強くなるわ」というセリフは、13年の歳月を経てバイファムという物語に再会した視聴者から13人の子供達に向けられた言葉であったことは間違いないでしょう。この回はあくまで「双子の赤ちゃん&ラピス篇」の最終回でしかありませんが、ホルテが子供達の新たな出発を見送るこの回こそが、13年ぶりの新作として制作された「13」の最終回となるべきだったのではないか、個人的にはそう思えてなりません。
■この回のクライマックスはケンツとルービンの別れのシーンでした。子供達だけでタウト星に向かう目的のために、率先して彼女を騙す行動に出てしまったことで良心の呵責に苛まれるケンツ。彼はひとり格納庫へ向かうルービンを追いかけ、想いを寄せていた彼女に自分の行動を謝ろうとしますが言葉が出てきません。しかし全てを悟っていたルービンは彼を責めようとせず、自分がつけていたネックレスをケンツにかけてやります。
「時々は、思い出してね。」
ルービンに持ち場に戻るよう促され、敬礼するケンツ。そんな彼に微笑み、敬礼を返して去っていくルービン。ケンツに敬礼した後彼女が浮かべる一瞬の微笑みは、これまでの彼女の表情と比較してなんと輝いて見えることでしょう(第9話でホルテに促されて浮べた笑みとはまさに対照的です)。ジェイナスから去っていく小型艇をブリッジでじっと見つめるケンツ、そしてそんな彼に気が付くシャロン…という配役も絶妙です。前の第13話におけるシャロンと双子のスケールの大きな別れに比べると地味なシーンではありますが、ルービンとケンツの関係をよく表した感動的なシーンでした。このシーンにはこの回まで温存されていたBGM(音楽集Vol.1の12曲目)が用いられ、最大限の相乗効果を生み出していました。個人的には前の第13話よりも「バイファムらしい」別れが描かれた名シーンだったと思うのですが、いかがでしょうか。
■作画監督が替わると絵が変わるのは共同作業である以上仕方のないことですが、今回はカットによって子供達の頭身が違うなど唖然とするシーンが続出。クレジットを見る限り動画は海外発注のようで、制作サイドのあわただしさが伝わってきます。個人的にはBパートなどでオリジナルシリーズに近い頭身の子供達が見れて良かった気もするのですが、左右の腕の長さが違うキエフ号のスタッフ、そして作画次第ではそれなりに注目されていたであろうショートカットの女性スタッフなどは少しもったいなかった気もします。
■プランクトンのようなデザインのラピスの母艦「キエフ号」は、バイファム世界においてはかなり異色のメカです。ホルテ達第3方面軍の旗艦という位置付けですが、劇中では艦内の描写が中心となったため、艦自体のデザインや規模、ラピスの組織を物語るであろう艦内の施設があまり描かれなかったのが残念なところです。また余談ながら「キエフ」というのはもともとロシアの都市名ですが、アメリカ大統領の名前が付けられた戦艦と対極に位置する存在として命名された…というのは考えすぎですよね、やっぱ。
■一足先にキエフ号にやってきたスコットがジェイナスに残ったロディ達に通信を入れるシーンでは、これでもかというくらいスコットが壊れていました。「うふふ〜んもし両親の居所が分かればホルテさん達の力で話ができるチャンスだってぇ〜ん」キエフ号で妙なクスリを打たれてアホになったのかと思いました(失礼)。まあそれは冗談としても、「13」のスコットは始終この調子なのでこの回だけが特別というわけではないのですが、この回はドラマがシリアスということもあり、本篇の雰囲気を壊さない程度の演出に留めてほしかったものです。
■キエフ号にやってきた子供達全員がクリップ型の翻訳機を胸につけているという細かい演出の一方、通信画面の「ラピス」の綴りがモロに英語だったりと随所に解釈に苦しむ部分もありました。フレッドがペンチに着せられたセーラー服などの補給物資は地球向けに用意されたものであるとしても、どうしてキエフ号の遊技場に竹馬があるのかは謎です(地球人向けの施設である…というのは言い訳としてはさすがに苦しいでしょう)。制作スケジュール上あまり余裕がなかったのは分からないではありませんが、もう少し異星の文化とのふれあいを丁寧に描いてほしかった気もします。
■「おばちゃんの作った料理、おいしかったよ〜」というルチーナのセリフがあります。実はその料理を作ったのはルービンである…というのは視聴者の誰もが知っていることですが、それについて何も主張しないルービンはさすがです。人間できてますねぇ。
■ここまでホルテ達に比較的冷たい態度を取ってきたバーツが、ホルテ達に通信で別れを告げる際に今までの非礼を詫びるシーンがあります。これまでの展開からするといささか唐突な感じもしますが、最後の最後でまとめるにはこうするしかなかったのでしょう。
■余談ですが、この回のケンツとルービンの別れのシーンには、実は本篇とは別に「後日談」が存在します。それは「13」のLD、第7巻(第13〜14話収録)のジャケット、この第14話でルービンから手渡されたネックレスを、ケンツが眺めて物思いに耽っている…というイラストです。たった1枚のイラストではありますが、本篇では映像化しにくいであろう「第14話のその後」のシチュエーションを見事に表現したその内容は脱帽ものです。「13」のLDジャケットはほかにもファンを唸らせる内容が多く、オリジナルシリーズファンも必見です。

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