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第10話
「宇宙か地か−基地攻防の大決戦!」

1983年12月23日放映


子供達は連絡の取れないジワイメルウ基地に行くかどうかを巡り二派に分裂してしまう。トラックで出発するバーツ達、基地に残ってシャトルの整備をするロディ達。だがバーツ達が出発した直後ジワイメルウ基地が壊滅したとの通信が入り、スコットとロディは急遽ジープで後を追う。バーツが運転するトラックが目の前で敵艦に破壊されたのを見たスコットはロディとともにジープを操り、ミサイルで敵艦を撃破することに成功する。直前に下車していた子供達、そしてトラックを運転していたバーツはケガひとつなく、子供達は再び一致団結することができたのだった。

「スコットがキャプテンとして全員に認められること」。「銀河漂流」がスタートする迄にこの人間関係の核となる部分が完成していることは、その後の物語を進めていく上での必須命題でした。この回はそんなスコットのためのエピソードであると同時に、13人が団結する直接的なきっかけとなる重要な回です。バイファムという物語の導入部分であるベルウィック星篇において、この回は事実上の総仕上げにあたる話であると言えます。

軍司令部のあるジワイメルウ基地に行くかどうかで2つに分裂してしまう子供達。彼ら13人がはっきりと2つのグループに分かれたのは「バイファム」の全エピソードを通じてこの時だけです(※男女2派に分裂した「13」第15話はまた別)。何せ普段仲間内でいざこざがあった時に間を取り持つことの多いバーツがジワイメルウに向かう一派の先鋒に立っているのですから、グループが分裂してしまうのも当然といえば当然です。バーツはジワイメルウ基地に向けて出発の準備をすすめ、唯一の大人であるケイトもやむなくこれに同調します。多くの子供達も彼に同調する姿勢を見せます。
一方ロディはジワイメルウ基地に行くメンバーには加わらず、基地に残ってシャトル出発の準備をすすめると主張します。そんな彼を説得するためにやむなくアゾレックに残るスコット。ロディが見せる強硬な姿勢、特にケイトに対するそれはこれまで描かれてきた彼のキャラクターとは少々異質なものですが、スコットのキャプテンとしての役割を印象付けるための役回りであったと考えれば納得できます。

バーツ達一行が出発した後、残されたスコットの元にジワイメルウ基地からの連絡が入ります。待ち望んでいた軍からの連絡に狂喜するスコット。しかしそれは彼が待ち望んでいた内容とは程遠いものでした。ジワイメルウ基地は総攻撃を受けて壊滅寸前の状態であり、アゾレックで孤立している子供達は独自の判断で脱出せよ、というものです。愕然とするスコット。我に返った彼はバーツ達に連絡を取ろうとしますが、無線が通じません。彼はロディと共にジープでバーツ達一行の救援に向かいます。
一方ジワイメルウの前線基地が破壊されているのを発見したバーツ達一行は改めて基地に連絡を取り、初めて事の重大さに気付きます。その直後敵輸送艇(xu23a)に発見されてしまうバーツ達。バーツは他のメンバーを車から降ろし、囮となってトラックを走らせます。彼の必死の努力空しく、彼の運転するトラックは輸送艇に撃破されてしまいます。立ち尽くす子供達。その光景を目撃したスコットは逆上し、ミサイルをセットしたバギーで敵輸送艇に突撃します。放たれたミサイルによって敵輸送艇は撃破され、危機は去ります。そして再会する子供達…。

これらのシーン、敵味方共にRVは一切登場しません。ジワイメルウ基地に向かうバーツ達や彼らの救援に向かうスコットとロディ、彼らにRVを持たせることはそれほど難しいことではなかったはずです(実際に第40話ではこれに似たシチュエーションが登場し、この時はロディがバイファムで救援に向かいます)。しかしこの回でそのような演出がなかったのはこのこのエピソードの目的がRVの戦闘シーンを見せることではなく、ひとえにキャプテンとしてのスコットの活躍を描くことにあった証明に他なりません。ラストシーン、真っ黒に汚れた顔で握手を交わすスコットとバーツ、ロディ。そしてバーツが生きていたことで感極まって涙を流すケンツ。スコットがキャプテンとして認められるきっかけとなったのは、13人の中で実質的な意志決定役となっているバーツがキャプテンとしてのスコットを認めるということでした。彼らはこの事件によってひとつに団結し、そしてスコットは誰からも認められるキャプテンとしてその地位を固めたのでした。

「大変な一日」が終わり、スコット達はアゾレック基地の食堂で一息つきます。一日の疲れからか早々と引き上げていくケイト、そしてロディ達。スコットは全員が無事だったことを胸を撫で下ろしながら、自分たちがひとつの岐路に立たされていることを実感します。
「この先どうすればいいんだ…どうすれば…」。
彼らがベルウィックを出発する日は、もう目前に迫っていました。

■この回は第6話と密接な関係があります。軍に保護してもらうためジワイメルウに行くことを思いつくバーツですが、彼の発想の根本は第6話ラストでディルファムのパイロットが「我々は命令がなければ動けない」と語ったことにあります。一方同じ第6話で軍人に助けられたロディの場合は地上はどこも危険だからシャトルで脱出するべきだ、と主張します。ほぼ同じ経験をしていながらまるで異なった主張を展開する点はユニークですが、個人的には彼らの主張はそっくり逆になるのが自然な成り行きだったのではないか?と思います。つまり、実際に軍人に助けられたことがあるロディは再び軍に保護してもらうためにジワイメルウ行きを主張し、一方のバーツはベルウィックを脱出する準備をする…という形のほうが前後のストーリーに繋がりがあったように思うのです。もっともこの組み合わせであればこの回冒頭からの展開は全てご破算になってしまうわけで、そういった意味からもスタッフは計算づくでこのような展開を選択したのではないかと思われます。ロディはバーツのような車の運転はできませんし、バーツとスコットが助けに来るという組み合わせはこの話の主旨を考えるとあり得ないですからね。(或いは第6話に遡ってロディとバーツの役割を逆にする方法もありますが、そうすると今度は第6話の主役が誰か分からなくなるという…難しいですね)
■戦闘が終わって一同が再会する場面のあとに「アゾレック基地の食堂で一息つく」シーンが付け足されているのは、ラストシーンがこの前の第9話と同じパターンになることを避けたためだと考えられます。のちに一緒に行動することになる「年長組」のグループが集結して話し合うというシチュエーションは事実上この場面が初出であり、スコットがリーダーとして認められるのと同時進行で彼やロディ、バーツを核としたグループが成立していることが分かります。また、ここまでの劇中で素顔が見えづらかったマキの居眠りシーンはちょっとした描写でありながら、この第10話のスパイスとして非常に効果的だったように思います。
■この回注目すべきなのはケイトの置かれたポジションです。子供達がジワイメルウに行く行かないで議論している頃ケイトは司令室にこもりきりで彼らの意思決定には直接介在せず、またジワイメルウに出発した後は無線を操作するシーンがある他は一切の主導権をバーツに握られており、そしてアゾレックに戻った後のラストシーンでは「私ちょっと疲れたわ…」と言って先に退室してしまいます。彼女は唯一の大人でありながら、子供達を導くリーダーとしての役割は担えない…ということがここまで直接的に表現されたのはこの回が初めてです。スコットがリーダーとして認められたこととケイトが役不足をさらけ出したのが同じ回だったのは決して偶然ではないように思います。
■ここまでの物語で全くと言っていいほど目立たなかったカチュアが、この回を境目として描写され始めます。ここまで彼女が描かれなかったのは13人の人間関係を描くことに物語の主眼が置かれていたことが理由であり、この回からカチュアが徐々に物語の表舞台に顔を出すようになったのは、13人の人間関係を描くという当初の目的がほぼ達成されつつあったこと、および第2クールへの伏線だと言えます。そして子供達がベルウィックを離れる次の第11話からは、これまで謎に包まれていたカチュアのキャラクターが物語の前面に立ってくることになります。


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