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【放映リスト】

オリジナル・ビデオ・パート1
「消えた12人」

1985年02月25日発売


タウト星に向かって航海を続けるジェイナスにさまざまな異常が発生し、子供達はそれがお化けの仕業であると怯える。目撃された光る「目」の正体こそ紛れ込んできたククトの小動物であることが判明したが、照明が消えたりといった異常は続く。仲間を守り抜くために立ち上がったスコットだったが、ひとり、またひとりと消えていく子供達。完全装備で食堂に突入するスコットだったが、実はそれは子供達が彼の誕生日を祝うために仕組んだ悪戯だった。スコットは複雑な気持ちの中、16歳の誕生日を祝福されるのだった。

このOVA3巻は「タウト星に着くまでの旅の中で起こったエピソード」という設定で本篇終了後に制作されたオリジナルストーリーです。つまり、本篇第22〜26話に挿入される外伝として後年制作された「13」とコンセプトはほぼ同じであると言えます。

…タウト星に向かって航海を続けているジェイナス。ある夜、艦内の見回りをしていたロディとバーツは、女性陣の部屋の扉が開いているのを発見します。クレア達のあられもない寝姿を見て興奮するロディとバーツ、そしてケンツにフレッド、ジミー。実際に彼らがどこまで見えていたのかはともかく、興奮したケンツはのぼせたような表情を浮かべ、フレッドは我を失って奇声を上げます(やりすぎ)。
その物音を聞いた隣室のシャロンは、ブリッジにいるスコットに調べにくるよう懇願します。女性陣の部屋の前まで来たところを覗きと勘違いされ、クレア達に袋叩きに遭ってしまうスコット。必死の弁解も聞き入れられず意気消沈した彼は、逆にこの機会に自分の存在の重要さをクルーに思い知らせようと考え、小型艇でジェイナスを飛び出そうとします。最初はそれを制止しようとした子供達でしたが、ロディとバーツが余計な茶々を入れたことから事態は悪化してしまい、彼らの悪口に激怒したスコットは本当にジェイナスを飛び出します。とはいえ小型艇を満足に操縦する技術があるわけでもなく、ジェイナスの周りを飛び回るだけのスコット。このあたりの彼のリアクションは、明らかに第21話からの流れを汲んでいると言えるでしょう。
そんな時、レーダーにアストロゲーターの機影が捉えられます。あわてて出撃するロディとマキ、大いにうろたえるスコット。しかし敵に遭遇することなく、その反応はレーダーから消滅してしまいました。思わぬボギーのミスに首をかしげる一同ですが、これをきっかけとしてスコットを翻意させることに成功します。ジェイナスに戻ろうとしたロディとマキ、スコットですが、彼らの目の前に、ククトの監視衛星が出現します(第26話で登場するものと同じタイプですね)。先制攻撃をかけるも監視衛星はまるで無反応。ロディ達は中に潜入し、各自が機体から離れて調査に向かいます。彼らの背後をつける怪しい影。コントロールルームを破壊して監視衛星を離れた直後、衛星から飛び立つ飛行物体。やはり衛星の中に敵はいたのです。無人と思われていた衛星に敵がいたという事実は、のちに子供達を疑心暗鬼に陥らせることになります。

ジェイナスに帰還し歓迎されるスコット。レーダーが誤作動したという報告を受けたあと自室で休憩を取っていたスコットは、艦長を呼ぶ不気味な声を耳にします。「ジェイナスは終わりだ」という不気味な声。悲鳴を上げるスコット。その声は他の子供達も耳にしていました。監視衛星でロディ達が機体から離れた際、何者かが忍び込んだのではないかと疑う子供達。彼らは艦内の捜索に向かいます。バイファムの足元に血痕を発見するロディとバーツ。やはり何者かが艦内に忍び込んでいたのです。
手分けして艦内の捜索に出掛ける子供達。マキ達が訪れたシャワールームでは不意に水が噴出し、ケンツとジミーは幽霊らしき影を、ペンチとフレッドは謎の「光る目」をそれぞれ目撃します。きっと監視衛星に潜んでいた工作員がジェイナスに潜入したに違いない、と疑いを強める子供達。
そんな時敵ARV接近の警報が鳴ります。どうせボギーのミスだと決め付けるスコットでしたが、敵の発砲により本物である事が分かります。慌てて迎撃する子供達。一時的にサブに切り替わっていたコンピューターがまたメインに切り替わるという不可解な現象の中、彼らはなんとかARVを撃退します。
再度艦内の捜索に出かけようとした時、ジミーがククトの原住動物であるリスダヌキを連れてブリッジに現れました。バイファムの足元の血痕と「光る目」の正体が分かってホッとする子供達。しかしその時突如艦内の照明が消え、艦長を呼ぶ不気味な声が聞こえてきました。飛び回る幽霊を見て失神するスコット。

ロディ達は「呪ってやる」という謎の声から過去にジェイナスで何かあったに違いないと考え、それを調べるために資料室に調査に向かいます。コンピューターを操作していて「あるもの」を発見したロディ達。彼らはブリッジに戻るなり、このジェイナスで過去に乗組員の謎の蒸発事件があったこと、そしてそれを調べようとしたクルーまでもが蒸発してしまう事件があったこと、その場所は「第13号倉庫」であり、今も血の匂いが残っていることをスコットに告げます。
勇気を出してその「第13号倉庫」を調べることを決意したスコットは、残る12人全員をロープで繋げた状態で捜索に出発します。しかし先頭のスコットの張り切りようとは裏腹に、ロープに繋がれていたはずの子供達は一人、また一人と姿を消していきます。知らない間にロディとクレア、スコットだけになってしまった一行。スコットがエレベーターに閉じ込められたスキに残るロディとクレアも姿を消してしまい、残されたのはスコット一人となってしまいます。
パニック状態になり、しばらく毛布を被って部屋に閉じこもっていたスコットでしたが、通信機からキッチンルームに来るよう子供達の声が聞こえてきたことで、彼らを助けに行くことを決意します。ライトをつけたヘルメットを被り、バットを手にした完全装備でキッチンルームへと突入したスコット。彼の前に待ち受けていたのは、暗闇の中で目を光らせるリスダヌキでした。手にしたバットを振り回すスコット…。

と、突然明かりがつき、スコットの目の前にはロディやクレア達が何事もなかったかのように立っていました。何が起こったのか分からずポカンとするスコット。
実はすべてはスコットの誕生日を祝うための演出であり、ロディ達は過去にジェイナスの乗組員が作った艦長の誕生日を祝うためのプログラムをうまく利用しただけでした。騙されていたことを知ってふくれるスコットの前で彼の誕生日を祝う歌(「パパにあえる ママにあえる」の替え歌)を歌う子供達。なんとなくうやむやにされて複雑な表情をするスコットですが、クレアの祝福のキスと、ケーキを食べて元気を取り戻すのでした。

こうして「事件」は無事解決しました。そして再び明かりのともったジェイナスは、引き続きタウト星に向けて旅を続けます。

■このOVA3巻のジャケットに書かれた宣伝コピーは「ミステリーはいかが?」。仲間が一人ずつ姿を消していき、そして最後に一人だけが残る…という展開は、言わずと知れた推理小説家アガサ・クリスティーの代表作「そして誰もいなくなった」のパロディ。姿を消したメンバーの中に犯人が含まれており、最後に残る一人を陥れるための策略であった…という点はまさにそっくりです。ちなみにこの「消えた12人」から遡ること約1年半前、テレビアニメ「うる星やつら」においてもこの「そして誰もいなくなった」のパロディが放映されており(第98話「そして誰もいなくなったっちゃ!? 」=1983年7月6日放映)、このネタを事前に知っていた視聴者は当時かなり多かったものと思われます。ちなみに脚本の星山氏は言わずと知れた「うる星」初期のメインライターであり、このあたりにこの「消えた12人」のルーツがあると考えてもよさそうです。余談ながら、上記「うる星」第98話の演出は、バイファムでも何度か演出・絵コンテとして参加しておられる西村純二氏その人。
■このOVA3巻「消えた12人」は当時のファンに絶賛をもって迎えられ、当初制作予定になかったOVA4巻「ケイトの記憶〜」がリリースされるきっかけとなりました。本篇の「続篇」ではなくシリーズの中間位置に挟まる「外伝」という可能性を提示したことが、のちの「13」制作の遠因となったことは間違いないことでしょう。また、本篇であまり描くことのできなかったキャラの意外な一面を描きたいというスタッフの意向は、この回のシャロンの描写などによく表れています。結果的にそのことがペンチの性格を捻じ曲げたりといった影響をもたらしているわけですが、この傾向はのちの「13」にそのまま引き継がれることになります。
■このOVA3巻はリリースされた当時、他のいくつかのサンライズ制作の作品と共に「日本サンライズ・アニメフェスティバル」として映画館での上映が行われました。もともと映画館での上映があることを前提に制作が行われたせいか、画面のクオリティはテレビシリーズの比ではありません。テレビシリーズの作画陣が結集したオールスター・キャストによるハイクオリティな作画は、シリーズの最高峰に位置すると言っても過言ではないでしょう。
■この回の13人の中におけるスコットのポジションというのは、本篇のどの回にも当てはまりません。敢えて近いのは第21話かもしれませんが、どちらかというとシリーズ後半以降に視聴者の間で独自に形作られたスコットの「別の」キャラクターが具現化したものであると言えそうです。ちなみにこのハイテンション&クルーから軽んじられるスコットはOVA4巻「ケイトの記憶〜」そして「13」と登場することになります。このようなスコットが魅力的ではないとは言いませんが、彼のキャラクターはあくまで真面目で几帳面(+神経質で臆病)な部分が土台になっていることを忘れてほしくはないものです。
■この「消えた12人」が本篇とある意味一番大きく異なっているのは、その本篇の尺数=長さにあります。1話が30分枠に収まっていた本篇と異なり、この「消えた12人」はおよそ倍近い時間をかけて描かれます。そのため1話に戦闘シーンが2回登場したり、いわゆる「二段オチ」的な展開も散見されます。その結果、スコットが防具をつけて立ち上がるクライマックス部分と、そこに至るまでのネタ振りの部分の区別がつきにくくなってしまい(13人がロープを腰に結び付けて歩くシーンこそがクライマックスだと思ったファンは多かったことでしょう)、バイファム独特の物語展開のリズムは失われてしまっています。また、本篇では使用されなかった新録のBGMが使われていることも、「本篇と何かが違う」と思わせる一因となっています。まあ、これを言い出すと第2期録音分のBGMやシリーズ後半のサブタイトルの音楽が使用されているとかキリがないんですけど。
■この「お化け騒動」のエピソードは、「13」第17話でリメイクされる形となりました。「リメイク」と言うと非常に聞こえはいいのですが、終盤防具を身にまとってで「お化け」に立ち向かおうとするスコットの姿はそのままフレッドに置き換えられたほか、シャロンとペンチの役割が完全に逆転していたりと、同じ世界観の中で2篇とも存在しているということに少々納得のいかない内容となっています(脚本は同じ星山氏)。ひょっとするとこの「消えた12人」の存在を失念したまま「13」第17話を制作してしまったのではないか?とも考えられないこともありません。
■この「消えた12人」ではシリーズ中のおなじみのBGMの他に、本篇のエピソードに合わせたミステリアスな雰囲気の新BGMが多数用いられています。OVA4巻「ケイトの記憶〜」のBGMが単独のサントラとして発売されたのに比べ、この「消えた12人」のBGMは結局世に出る機会がないままとなってしまいました。いつの日か何らかの形で世に出ることを望みたいものです。
■「13」でもそうですが、本篇が終わった後に作られたが故に辻褄が合っていない部分というのはこの「消えた12人」には少なからず存在しています。ペンチのキャラクターは明らかにククト星篇以降の流れを組んだものであり、フレッドとの間に見られるアツアツぶりは本来の第2クールまでの展開を考えると自然なものではありません。また、物語のキーマン?となるイプザーロン系の原住動物リスダヌキがその後の航海においてどうなったのかも一切触れられていないなど、このテの矛盾は本篇中に散見されます。しかしこの「消えた12人」は、もともとストーリーや状況の枝葉末節にこだわらず、子供達の生き生きしたエピソードを作る…というのが目的であり、そういう部分には目をつぶって純粋に楽しむべき「サイドストーリー」なのでしょう。もっとも、舞台がタウト星到着の直前であるにもかかわらず、本篇に見られた微妙な緊張感までもがスパッと欠落してしまっている点は評価が分かれるところかもしれません。
■本作ではキャラの表情が非常に豊かに(オーバーなまでに)描かれています。冒頭女性陣の部屋を覗いた直後に奇声を上げるフレッド、にやけるロディ&バーツ、正体不明の光る目玉(=リスダヌキ)を目撃し抱き合って絶叫するフレッド&ペンチ、そして泡を吹くスコット。これを作品がリリースされた順番、つまり本篇→OVA1,2→この「消えた12人」という順序で振り返った場合、バイファムという物語がどのような方向に行こうとしていたのかがよく分かります。
■冒頭のボギーのセリフにあるように、このエピソードは「2058年3月21日」のものです。従ってスコットの誕生日も3月21日であるということになるのですが、このあたりの時制はオリジナルシリーズの第45話のお誕生会と同様、いわゆる「ご都合」であると解釈するのが正しいところです。何せ、彼らがベルウィックのステーションを出発した(※第12話)のはこの翌年、「2059年」の1月13日であるわけですから。
■テレビシリーズと異なり下から上へ流れるエンディングのスタッフロールでは「ボギー:秋山るな」というクレジットが登場します。秋山るなさんはテレビシリーズ、そしてのちの「13」でも一貫してボギーを演じておられるわけですが、オクレジットが表示されたのはこのOVA3巻が最初で最後。このエピソードで影の主役であったボギーを称えての?クレジットであると言えるかもしれません。
■冒頭でフレッド、ケンツ、ジミーが女性陣の部屋を覗くシーンは、テレビシリーズの第21、39話などでそのテのエピソードに直接遭遇しなかった彼らの「意外な一面」を見ることができます。もっとも、寝室を覗いた程度であの年頃の子供達があそこまで興奮するのかどうかはよく分かりません。扉の位置からクレア達の姿が拝めたのかどうかは甚だ疑問ですし、だいいちモロだったわけでもないですし…ってそういう問題でもないんですけど、気になるシーンではあります。
なお余談ながら、スコットに叱られて部屋に戻った彼ら3人が布団にくるまって様子を窺うシーンで、闇の中にジミーの「目」が輝きます。信じられないことですが、本篇で1回も描かれなかったジミーの「目」がこんなところに出現しているのです。じっくりと見てみるのも一興。
■本篇のストーリーとは直接関係はありませんが、本作にはノンテロップのオープニング(シリーズ第1〜23話のバージョン)が収録されています。現在市場に出回っているバイファムのLD及びビデオでは放映当時の音源とアレンジが若干異なるものに差し替えられており、この「消えた12人」に収録されているバージョンこそが現在市場に残っている唯一といっていいオリジナルの音源です。
■このOVA3巻は本篇で言うと第22〜26話の間に挟まるエピソードである、と当時の宣伝文章にあります。具体的に考証を行うと、
・タウト星に到着していないが、敵のテリトリーには既に入っている
・トゥランファムが登場しない(ローデン艦隊と合流した形跡がない)
といった状況から、実際にはそれよりも少し前、第22話の直前に位置するエピソードなのではないかと推測されます。ただ、ラストシーンでスコットが誕生日を迎えて16歳になるなど、本篇と整合性が取れない部分はいくつかあります(「13」第2話の冒頭のナレーションではスコットが自ら15歳と名乗っていますが、ここまで整合性を追求するのは酷でしょう)。また、「13」の物語が存在する今となっては、第15〜18話「ボギー不調篇」に含まれるエピソードとして解釈したほうが順当かもしれません。いずれにせよタウト星に到着直前の、バイファム本来の「銀河漂流篇」がいちばん油に乗っていた時期のエピソードであると解釈するべきでしょう。


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