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第35話
「ケンツを助けろ!」

1984年06月23日放映


旅を続ける子供達のキャンプに、突然ククトニアンの子供達4人が現れた。食料を奪った彼らはケンツを人質に取り、そのままジープで逃走する。トレーラーで追跡するシャロンとスコットだが、そこへククト軍の機動兵器が襲来する。だが何故かククト軍からも逃れようとする4人の子供達。RVで駆けつけたロディとバーツによってククト軍は撃退されたが、言葉が通じないククトニアンの子供達の目的は分からずじまいだった。

「バイファム」の物語が進行するにつれ、13人の中から1〜2人が回ごとに交代で主人公的役割を担当するという構造が顕著になってきました。これは物語が熟してきたことの証明でもあるわけですが、裏を返せば展開がマンネリ化してきているわけです。13人の人間関係が定まっていなかったベルウィック星篇と異なり、彼らが銀河漂流の旅をスタートさせてからは誰と誰が一緒にいる機会が多いとか、誰と誰はくっつきそうだとか、そういった人間関係が画面からも視聴者に伝わってくるようになっていました。ククト星に降りた子供達が再び「旅」を始めたことで、この時点で何か起爆剤がなければ物語が進行しない状況に陥っていたのは事実です。

そこで「バイファム」の物語は、ここで13人以外に新たな少年少女4人を登場させるという方策を採りました。この第35話から第38話までをインターミッション的に区切り、本筋のストーリーは一旦休止させた上で(※大きな目で見るとストーリーは進展しているのですが)未知の彼らを「仲間」として迎え入れる過程を13人の視点から描くことにより、子供達同士が理解しあっていく「バイファム」序盤に多く見られたやりとりの面白さをもう一度描こうとする、これがこの第35話から第38話までの目的だったと言えます。

さてこの第35話は導入篇ということで、ガイ・ユウ・メル・ケイのククトニアン少年少女4人組が偶然13人のキャンプを発見するところから始まります。空腹に耐えかねたユウはテーブルの上の食料に手を伸ばしたところをマキに発見され、捕まりそうになった彼を助けようとしたガイはケンツとの取っ組み合いになります。結果的にケンツは人質となり、食料を奪った彼らはバギーで逃走しようとします。ロディとバーツが偵察に出ていて不在だったこともあり、不意をつかれて何もできないスコット達。目の前でバズーカを構えるガイを見て、恐怖のあまり食事のトレイをもったまま立ちすくむペンチの描写が印象的です。いくらガイたちが子供であるとはいえ、シリーズ中で敵意を持ったククトニアンと生身で相対するのはこれが初めてのことです。
結局ケンツを人質にとったガイ達はそのままバギーで逃走します。トレーラーで彼らを追うスコットとシャロン、遅れて追跡に向かうロディとバーツ。そこへ敵のRVが襲来します。追跡してくるククト軍のフローティングタンクに機銃を撃つガイ。バギーから振り落とされたケンツと子供達でしたが、駆けつけたロディとバーツ、そしてシャロンの活躍もあって九死に一生を得ます。
13人に「捕えられる」形となったガイ達4人のククトニアンの少年少女。言葉が通じないため、彼らの目的や真意は分からずじまいでした…。

■ククト星篇に入ってからは、13人の特定の仲を描くシーンが物語の随所に挿入されます。第31話のロディ&カチュアに始まり、第34話のバーツ&マキ、この第35話のケンツ&シャロン、第36話のフレッド&ペンチ、第39話のスコット&クレアなどがそれです(マルロ&ルチーナは第33話か第42話のあれが相当するんでしょうけど…まあいいや)。描写そのものは直接的なのから遠回しなものまでいろいろありますが、いずれにせよ制作側に彼ら「カップル」を順次物語に絡めつつ描くという規定方針が存在していたことが分かります。その中でもこの第35話はケンツとシャロンにターゲットを絞り比較的ストレートな描写が試みられました。目に涙をため石をふり上げるシャロン。ケンツに対する彼女の気持ちがはっきりと行動に出たのはこれが初めてのことです(時系列で言うとこれより前の出来事に当たる「13」第2話でも彼女がケンツを心配する描写がありましたが、これは演出上の都合)。逆にケンツがシャロンのことを思いやる描写はこの回には存在しなかったわけですが、これはどちらかというとケンツとシャロンとの関係云々よりも「ケンツがガイ達と真っ先に関わりあう」ことがこの回の目的だったからだと見ることができます。この回でガイ達に人質に取られるのがケンツでなければならなかった理由については、これらインターミッション的エピソードの最終回に相当する第38話を見れば理解できます。
■バギーで逃走しようとするガイをマルロがパチンコで狙撃するシーンは、シリーズを通して唯一のマルロの見せ場です(たぶん)。それにしても4歳の子供にパチンコをぶつけられたガイって一体…。
■不慣れな料理をしながら火の加減を調整するマキ、そして携帯用のトイレを自作するシャロン。そして13人とククトニアンの4人が初遭遇するシーンでは地面から巨大な石をひっこ抜いて投げつけようとするシャロンや、そんな彼らにアカンベーをするケイなど細かい演出が多いのもこの回のポイントです。また走るトレーラーの上空を通過していくバイファムとネオファムのカットについても、舞台がジェイナス&宇宙空間の頃には見せようと思っても見せることができなかったRVの巨大さを表したカットとして珠玉のものです。次の第36話と続けて見るとどうしても作画の粗さが目立ってしまうこの第35話ですが、こういった細かい演出に目を向けてみるのも一興だと思います。
■蛇足ながら、「13」で描かれたエピソードが第22〜26話の位置に存在していた場合、この回のエピソードは成立しません。異星人ククトニアンとのファースト・コンタクト…というニュアンスが一切失われてしまうからです。裏を返せば、この回ガイ達を見て震えるペンチの描写は初めて敵意を持ったククトニアンに相対した子供達の心理描写として非常に重要なポイントであり、このシーンが存在することによって第38話までの一連の物語が意味を持ち得たのではないか?と思えます。


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