[TOP]



【←前の話】 【放映リスト】 【次の話→】

第31話
「みしらぬ星ククト」

1984年05月26日放映


ジェイナスとはぐれ、ククト星の海岸に降下したロディとケンツ、カチュアの3人。ジェイナスを探す旅に出発した彼らは途中でククトニアンの施設に立ち寄り、ジェイナスに積まれたものと同じ遺跡を発見する。そこで彼らが遭遇した敵RVは、ロディがタウト星で出会った士官ミューラアの率いる部隊だった。ミューラアの執拗な攻撃をなんとか攻撃を退けたロディ。その夜野営のキャンプで毒虫に噛まれたロディだったが、カチュアの懸命の働きで助けられるのだった。

この第31話ほど、バイファムという物語の変化がはっきりと画面上に表れた回はなかったのではないかと思います。これまで宇宙を旅してきた13人がククト星の地上に降下するというだけでもショッキングな出来事でしたが、さらにロディ、カチュア、ケンツの3人が本隊からはぐれてしまうという展開には見ている我々までもが心細くなったものです。広がる海、文字通り抜けるような青空。その何もかもがこれまで描かれてきた宇宙空間とは好対照です。冒頭のシーン、見慣れない地上の風景にあっけにとられるロディ。これまでの「バイファム」とは明らかに異なるテイストを帯びた「ククト星篇」は、ロディの戸惑いの視点からその幕を開けます。

ジェイナスとはぐれてドッキングカーゴでククト星に降下したロディ、カチュア、ケンツの3人。本隊と別行動となったのがこの顔ぶれであることはその後のストーリー展開において大きな意味を持つのですが、彼ら自身はそんな事を知る由もありません。彼らは右も左も分からないククト星の砂漠で2機のRVに乗り、ジェイナスを探す旅に出ます。川の水を不用意に口にしてたしなめられるケンツ、見知らぬ動物、そして食べられるかどうかも分からない森の果物。彼らの挙動からはいかにも「未知の場所でのふるまい」といった雰囲気が感じられます。
途中立ち寄った収容所で、彼らはククトニアンの捕虜らしい人たちが連れ去られるのを目撃します。どうやらこの星には同じククトニアンでも軍以外の人々も存在しているようです。輸送機が去って無人となった収容所に潜入したロディたちは、森にあったものと同じ果物を発見します。ククトニアンであるカチュアが目の前にいるのを忘れ「ククトニアンだって同じ人間なんだろ?」とロディに突っ掛かるケンツ、顔を見合わせるロディとカチュア。このシーンのケンツはカチュア=ククトニアンであることを失念しているわけですが、それは逆に彼がカチュアのことを「仲間」として認めている証明でもあります。いずれにせよこのシーンでのケンツの態度は第15〜16話での彼の態度と比較すると非常に興味深いところです。
収容所を出て森で小休止する3人。そんな彼らの前に、落下したジェイナスのブロックの調査をするミューラアの部隊が現れます。タウト星で一瞬だけロディの前に登場したミューラアの、特務部隊の隊長としての再登場です。この回のミューラアにはセリフが一切ないのですが、彼の目的はジェイナスに積まれているリフレイドストーンを探すことにあります。偵察を続けるうち彼らに発見されてしまい、交戦状態に陥る3人。彼らは苦戦するもののなんとかミューラア操るARVデュラッヘを退けます。ここでの戦闘シーンは第30話までのそれと異なり、明らかに「RV対RV」を意識した描き方がなされています。

そしてその夜、毒虫に噛まれたロディを献身的に介抱するカチュア。この第31話はストーリーそのもの以外に、冒頭で寒がるカチュアに自分の上着をかけてやるロディや、そしてこのラストシーンでのアクシデントが非常に印象に残る回だと言えます(カチュアが必死で毒を吸い出している後ろで殺虫剤を振り回しているケンツの姿は可笑しくもあり悲しいです)。ロディとカチュアがこのような関係になっていくというのはこの話以前にも伏線がなかったわけではありませんが、視聴者の誰もが「えっ!?」と驚いたというのが本当のところでしょう。ロディとカチュアの関係を軸としたエピソードはその後第41話「カチュアを撃つな!」を経て、最終回へとつながるひとつの大きな流れとなっていきます。

■この回からはククト星篇の第1回目ということもあり、演出面でも明らかにこれまでの話と差別化されていることが伺えます。音楽面ではサブタイトルの音楽がこの回から変更となっている上、ミューラアの本格的な登場に伴って彼のテーマBGM(THE ASTRO ENEMYのインストゥルメンタル)が劇中で初めて使われるなど、物語が新しい方向に進み始めたことがはっきりと感じられます。バイファムのBGMには第1期録音分と第2期録音分の2種類がありますが、この回からは劇中で使われるBGMのほとんどが第2期録音分のBGMにシフトし、これまでの宇宙空間での物語を前提としたBGMとははっきりと選曲面で差別化されていることが分かります。
■第24話から変更となった新オープニング・フィルムによってククト星が緑のある地球タイプの惑星であることは既に明らかになっていたわけですが、それでもロディが乗るバイファムの頭上に宇宙空間ではなく青空が広がっている…という光景は非常に不思議なものに感じられます。
■この第31〜32話で彼ら3人だけが別行動となったのは、今後の物語がロディとカチュアを中心に展開する必要があったことも理由の一つですが、それに加え「ジェイナスによる大気圏突入」という設定上の嘘を隠すためにカメラを一旦ジェイナス以外に振る必要があった、というのがもうひとつの大きな理由でしょう。仮にジェイナスが大気圏突入に成功したとして、全員が無事な状態で、しかも敵からうまく身を隠せるような谷間にぴったり着陸するというのは普通に考えて不可能であり、それらを無理に映像化しようとするとこれまで築いてきたリアリティさが嘘臭いものになってしまうからです。つまりこの回が生まれたそもそものきっかけは「ジェイナスをいかにして登場させないか」ということだったと判断されます。ちなみにのちの「13」第20話では、13人(+2人+1匹)がシャトルの両翼にRVを搭載した状態で旧タウト星に降下したものの着陸地点がなく右往左往し、最後は不自然なまでにフラットに干上がった湖に着陸する…というシーンが描かれました。この時の展開のやたら間延びした「わざとらしさ」と比較すると、この第31〜32話は視聴者に違和感を抱かせないだけの対策がきちんと取られていると言えます。
■そもそもトゥランファムが2人乗りであるのは、この第31〜32話の展開が前提にあったからだと思われます。それはこの回、ケンツに替わってトゥランファムに搭乗したロディとカチュアの会話のシーンがあったことでも分かります。「この星のどこかにあなた達のご両親がいるのね」「そう、そして君の生まれ故郷でもあるんだ」…ケンツがいる場面ではなかなかできないやりとりであることは間違いないでしょう。その後のロディとカチュアの関係を考えた時、このシーンが持っていた意味は限りなく大きいと言えそうです。
■この回のカチュアはロディにかけてもらった上着を着て行動します。設定画がわざわざ起こされていることからも、この「ロディの上着を着用する」という展開が練りに練られたものだったことを窺い知ることができます。第32話ではカチュア手作りのポンチョが登場したことでこの上着を羽織るというシーンはこの回だけのものとなりますが、この第31〜32話を見る限り、ククト星はそれまで彼らがいたジェイナス艦内の環境より若干気温が低い環境として描かれているようです。
■ロディの指を噛んだ通称「毒虫」はいかにも毒を持っていそうな分かりやすいデザイン。イプザーロン系の惑星に生息する動物といえばギャンザーやのちに登場するリスダヌキ、メニアなど哺乳類系の印象が強いですが、この毒虫もその奇抜な色とデザインで強烈なインパクトを残してくれました。もっとも「私も毒虫になってロディの指にしゃぶりつきたいっ!」と思ったファンがいるかどうかは定かではありません。
■この回のケンツの役割はロディとカチュアの引き立て役といったところでしょうか。ケンツ自身にとってはあまり見せ場のない話だったかもしれませんが、もしもここでロディと行動を共にするのがケンツではなくマキだったり、バーツだったりした場合、この回の展開は成立していなかったことは間違いありません。
■シリーズ後半のARVメインメカであるデュラッヘとギブルがこの回初登場。特にデュラッヘはこれまでのARVとは異なりいっそう人型に近いフォルムを持っており、バイファムとの機動戦を存分に見せつけてくれます。宇宙空間でのバーニアアクションがなくなった分だけ地上におけるRVの動かし方には誤魔化しが効かず、作画スタッフの試行錯誤の跡が見て取れます。ちなみにククト側のメカでは、第38話でメルの父親達がククト軍から奪うククトニアンの輸送機などもこの回で初めて登場しています。
■タウト星でのジェダ達に引き続き、この回ではククト側に政府軍の捕虜となった民間人が存在していることが描かれます。ククトニアンにも軍によって連行される彼らのような人々がいる…という演出は、ガイ達少年少女が登場する第35〜38話の下地として非常に有効であったと言えます。
■ロディとカチュアがこのような関係になっていくことが、いったいどの時点で決まったのかは定かではありません。ケイトの死を巡っての彼らの和解が描かれた第17話の時点ですでにこの展開が予定されていたのか、それとも…。いずれにせよ、ロディのファンにとっても、そしてカチュアのファンにとってもこの回のラストシーンは大きなインパクトがあったことは間違いなさそうです。


[ トップページ ]