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第30話
「決死の大気圏突入」

1984年05月19日放映


戦闘の最中いち早くタウト星を発進するジェイナス。地球軍とククト軍の激しい戦いによってタウト星は大爆発を起こし、ローデン艦を含む全ての艦船は消滅した。危険を顧みない兄の行動についにヒステリーを起こしてしまうフレッド。ロディは彼を風呂に誘い、二度と危ないことはしないと約束する。再び始まった敵RVの攻撃の中、ジェイナスは大気圏突入のカウントダウンを進める。RVで迎撃に発進したケンツとカチュア、そしてロディはジェイナスに帰還できなくなり、ドッキングカーゴを用いての単独での大気圏突入を敢行する。カーゴは無事大気圏を突破し、静かにククト星の地表に着地した…

この第30話は、第1クール以来ほとんど描かれなかったロディとフレッドの兄弟にターゲットを絞って描かれています。彼らの兄弟関係を前面に押し出したエピソードとしては第1話の通称「おもらし事件」、そして第8話の高ゲタのエピソードなどがありますが、タウト星篇(第27〜28話)におけるロディの行動に代表される通り、第3クールに入りロディがかなり派手な(突飛な?)活躍を見せるようになってからは彼ら兄弟の関係は疎遠なものになっていました。徐々にフレッドに手が届かないところに行ってしまおうとしているロディとフレッドの関係をきちんと定義しなおすためにも早い時期にエピソードを立て、クレアドやベルウィックよりも一歩成長した(?)彼らの関係を描写することが必要だったと言えます。そしてこの回描かれる彼ら兄弟の成長を描いた物語は第32話「雨上がりの再会」のラストシーンのほか、同じく平野靖士氏脚本の第41話へ繋がっていくことになります。

…地球軍(ローデン艦隊)とククト軍によるタウト星会戦の最中、子供達はククト星へ出発するカウントダウンに入ります。苦戦する地球軍を目の当たりにし、カウントダウンを遅らせてでもローデン艦隊の支援に向かうべきだと主張するロディやケンツ。しかし兄に危険な行動をとってほしくないフレッドはひとり反対します。結局ジェイナスの発進直後にタウト星は大爆発を起こし、ローデン艦隊はタウト星もろとも消滅してしまいました。やはり救援に向かうべきだったと自分を責めるロディ。フレッドはそんな兄を「自信過剰」だと言い放ちます。弟の剣幕にあっけに取られるロディですが、自分がタウト星に捕虜となっている間フレッドがほとんど睡眠をとっていなかったことをバーツから聞かされます。次第に自分を避けはじめたフレッドを風呂に誘うロディ。まさに「裸の付き合い」というところでしょうか、ロディはフレッドにもう危険なことはしないと約束し、和解します。
ジェイナスごとククト星の大気圏に突入することを決定した子供達。そこにククト軍の戦艦2隻が襲来します(鑑定の種類から推測するに、タウト星奪還に向かっていた支援部隊のそのまた支援部隊という位置付けでしょうか)。ロディはフレッドとの約束よりも仲間を助けることを優先し、ジェイナスに帰還できなくなったケンツとカチュアのトゥランファムの救出に向かいます。大気圏突入用のドッキングカーゴを残し、ククト星に突入していくジェイナス。取り残された3人は自力での大気圏突入を敢行します(このシーンだけ見ると初代ガンダムの1シーンを彷彿とさせます)。トラブルが起こっても終始冷静な態度のカチュアと、涙目で「母ちゃん〜!」と叫ぶケンツの対比がいい味を出しています。
そしてククト星に降下したロディ達のドッキングカーゴ。青い空と光の反射する海面、美しいククト星の景色の中で静かに着地するカーゴ。BGMがないこともあって非常に印象的な映像です。

こうして彼らの「銀河漂流」の旅は一旦幕を下ろし、舞台はククト星の地上へ移っていきます。

■この回子供達が行なった「大気圏突入」に至るプロセスの無茶苦茶さはここで論じるまでもありません。単純にジェイナスが大気圏突入に耐えうるかどうかの問題だけでなく、そのシークエンスや決定までのやりとり、きれいさっぱり全滅して消えてしまうローデン艦隊、ロディ達だけがドッキングカーゴで別に突入することになる経緯や会話の「間」など、すべての要素がこれまでのバイファムの物語から遊離してしまっています(特に「5等級以上の軍艦は惑星緊急着陸できるはずだぜ」というセリフには「なんじゃそりゃ〜!」と当時放送を見ながらツッコミを入れたのを記憶しています)。これらのとってつけたような設定・展開は全てを第31話以降のストーリーから展開を逆算したことによる「歪み」であり、そのあまりに急な展開には、タウト星を離脱してから大気圏突入までに1〜2話を間に挟みつつじっくりと描くことはできなかったのか?と思わざるを得ません。(次項に続く)
■(前項の続き)しかしこの回においては、戦闘シーンに入ってからもロディとフレッドの交流を軸に物語を描くこと、そしてロディ・カチュア・ケンツの3人が別に大気圏突入するというハラハラドキドキの展開により、その「歪み」を極力目立たないようにする工夫がなされています。これは脚本を担当された平野靖士氏によるひとつのテクニックであり、やはり氏の脚本による第36話や第41話においても似たようなシーンが見られます(詳しくは第38話の項にて解説)。何より第32話「雨上がりの再会」ラストでこの回のロディとフレッドのやりとりの結末が描かれたことにより、ひとつの連続したエピソードとして絶妙のバランスを保っています。新作「13」第20話で描かれた無味乾燥な大気圏突入のシーンと比較した場合、同じ「子供達だけでの見知らぬ星への大気圏突入」というシチュエーションでありながら、この第30〜32話までの展開がいかに練られて描かれたものであったかがよく分かります。
■この回面白いのはペンチの役回り。兄弟喧嘩をしたロディとフレッドを気遣い、双方に声をかけるというシーンがあります。彼女のキャラクターを考えた場合、のちの第36話でフレッドといきなり毛布にくるまってしまうような展開よりも、この回の気遣いを見せる行動のほうがよっぽど自然で彼女らしいと言えます。こういう何でもないやりとりを積み重ねて関係が接近していくのが「人間関係」の描写であり、慌しいストーリー展開の中でこのように個々のキャラに気を配った演出がなされたのはさすがの一言に尽きます。また兄ロディに対するフレッドの心情は、単に危ないことをしてほしくないといった気持ちよりも、少しは自分にも構ってほしい…といった嫉妬心にウェイトが置かれていると解釈したほうが自然であり、「兄弟のドラマ」として非常に味がある描写となっています。
■バーツはこの回大気圏突入の航路の計算をする役目を担ったため、ネオファムで出撃するシーンはありませんでした。彼がもし出撃をしていればロディ達の単独での大気圏突入に至る流れに何らかの影響を及ぼしたはずであり、彼の役割はそこから逆算されたものであると推測されます。何より、通常であればこういう航路計算の役割はフレッドなりカチュアなりで完結してしまうのが普通ですからね。
■「危険なことはしない」と約束した割にはその直後に単独での大気圏突入の道を選択してしまうという展開には、「あれ、ここまでの展開には一体どんな意味があったの?」と首をひねってしまいます。弟との約束よりも仲間を守ることを選択したと言えば聞こえはいいのですが、フレッドのことを思ってロディが危険な行動を思い留まる…というシーンが(この回だけでなくその後最終回に至るまで)ひとつも見られなかったことにより、彼らのそれまでのやりとりが単に「一緒に風呂に入った」程度にしか解釈できないものになってしまったようにも思えないでもありません。
■冒頭、ローデン艦隊とククト艦隊との激しい戦闘が描かれます…が、お互い主砲の到達距離内に入った状態で砲撃戦を展開する戦術は素人目に見ても変。
■この回ジェイナスを急襲したARVはドギルム。もともと拠点防衛用としての用途が主なドギルムがここで登場するというのはちょっと妙な配役です。この回登場したククト軍がタウト星から発進した部隊でもない限り、艦船に搭載しているARVはウグもしくはルザルガであるべきだと思うのですが…(重箱の隅つつき)。まあ、大気圏突入の際にカプセルにしがみつく役割はドギルムでなければ見栄えがしませんが。
■大気圏突入時に燃え尽きることが分かっているのにカーゴにしがみついているドギルムはお約束。彼のけなげな姿は視聴者の涙を誘う…わけないか。あと、いくら画面上の見栄えを考慮したとしても、カーゴのパラシュートのド派手な配色には参りました。
■この回のロディとフレッドの入浴シーンは女性ファンの間で当時マニアックな人気を博しました。ロディがフレッドに「耳の裏ちゃんと洗ったか?」と尋ねるディティールの細かさがまた良いのだそうです。いや、よくは知らないんですけどね。


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