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第27話
「ロディ帰艦せず」

1984年04月28日放映


ついにタウト星を肉眼で捉える距離にまで接近したジェイナス。しかしタウト星はジェイナスの接近にもまったく反応を見せなかった。VRCでの偵察も効果がなくロディ達はRVでの接近を試みる。しかしそれを待っていたかのように出撃してくる敵のRV。ロディは敵の攻撃をかわしつつタウト星内部に侵入することに成功するが結局捕らえられ、ククト軍に尋問を受けた後監禁されてしまう。ロディは同じく捕虜となっていたククト反政府主義者のジェダから全ての地球人がククト星に移されたことを聞かされ、絶望して涙を流すのだった。

私達視聴者が第1話からずっと見守って来た、13人の子供達のタウト星への旅。しかし彼らがタウト星に行くことを決めた第15話以来、劇中で敢えて触れられなかった大きな問題点がありました。それは「なんとかタウト星まで辿り着けたとしても、子供達が両親を助け出す術を何一つ持っていない」という点です。彼らは「タウト星に両親がいる」という以外に何の情報も持っていないばかりでなく、救出のために画期的な作戦を準備をしている様子もありません(前の第26話でカチュアがククト語を勉強しているシーンがありましたが、これは第28話の伏線として描かれたシーンであり、直接この第27話とは関係のない描写です)。子供達はタウト星の大きさや状態も分からなければ、ククト軍の規模、彼らの両親がそこでどのような状況に置かれているのかなど、まるで知らないままタウト星まで来てしまったのです。そんな状況である以上、ケイトが第15話で語った通り「子供達だけで助け出せるわけがない」のです。何が何でも親に会いたいが故のがむしゃらな行動と解釈すれば不自然な行動ではありませんし、両親を救出するシーンを描くのが物語の目的ではないと言ってしまえばそれまでですが、現実にそのタウト星まで来てしまった今、ドラマの不自然さを視聴者に感じさせずになんとかここを切り抜けなければいけません(少なくとも子供達がククト軍と全面戦争を繰り広げて勝利するといった類の展開は禁じ手であるわけですから)。
この局面を乗り切るためにスタッフが用意した解決策は「ロディ帰艦せず」、つまり主人公ロディがタウト星で捕虜になってしまうというショッキングなエピソードでした。囚われの身となったロディの運命や如何に!?視聴者の興味をこの一点にすり替えてしまうことで、ドラマとしての盛り上がりを欠くことなくタウト星篇でのエピソードを進めようとしたのです。この第27話の展開は一部に不自然さは残るものの実に巧妙なシナリオとなっており、当時リアルタイムでバイファムを観ていた私はまんまとこのトリックプレーに引っかかってしまいました。さらにこの次の第28話では子供達の目的が「いかにしてロディを救出するか」ということに完全に置き換えられてしまい、両親については一部で言及されるのみになってしまっています。ドラマとしての緊張感を一瞬たりとも欠くことなく冒頭の課題をクリアしてしまった制作側のテクニックはまさに脱帽もの、と言っておきましょう。(皮肉ではなくて、です。念のため)

…遂にタウト星にやってきたジェイナス。しかしジェイナスの接近にもタウト星はまったく反応を見せず沈黙したままです。彼らはVRCでタウト星を偵察した後さらにRVを出撃させ様子を見ようとしますが、タウト星に接近したところでようやく敵の守備隊が出撃してきます(先に書いた「一部に不自然さは残る」部分というのはまさにこのタウト軍の動きなのですが、まあ良しとしましょう)。ARVドギルムの攻撃に苦戦する子供達ですが、そんな中ロディは「いちかばちか」ARVが出撃してきたハッチからタウト星内部に侵入します。なんとか潜り込む事に成功したものの、守備隊のARV(ズゴッホ)に挟み撃ちにされ身動きが取れなくなるバイファム。ロディは敵のスキを突いて「いちかばちか」ポッドで脱出し抵抗を試みますが、あえなく捕獲されてしまいます。そのまま捕虜としてククト軍に囚われてしまうロディ。彼はタウト駐留軍によって地球軍の勢力およびジェイナスに積まれているリフレイドストーンについて尋問を受け、そのままタウト星内部の独房に監禁されてしまいます。
何とか脱出しようと独房を調査するロディは、下層から赤ちゃんの鳴き声が聞こえてくるのを耳にします。ようやく両親達のもとにたどり着いたと思い下層に向かって呼びかけるロディですが、彼の呼びかけに応えた男性=ジェダは地球人ではなくククトニアンでした。ロディは彼からここにいるのがククトニアンだけであり、地球人はだいぶ前に連れ出されたことを知ります。タウト星に両親がいないことを知り号泣するロディ。親に会うためにタウト星へやって来た彼らの旅は徒労に終わったのでした。…

…これまでの「バイファム」とは明らかに異質であるキャラクターの登場、そして両親達がタウト星にはいなかったというドラスティックな展開の中、物語は「タウト星篇」の後篇である第28話へと続きます。

■基本的に1話完結のスタイルを貫いてきた「バイファム」において、この回は次の第28話と合わせ初の前後篇ということになります。これまでの物語が第2クール以降「とにかくタウト星に行く」の一点張りでじっくりと進行してきたことから考えても、この第27〜28話における「ペース配分」は極めて順当なものと言えそうです。またこの回はアバンタイトルが放映された最後の回となりました。
■この回Bパート以降は物語が完全にロディの視点に移り変わっています。特定のキャラを中心として物語が展開するのはここまでのバイファムを考えると極めて異例であり、物語がいよいよ核心に迫ってきたことが感じられる演出となっています(もっとも次の第28話は冒頭のナレーションからしてジェイナス側の子供達の視点が中心となるので、前後篇トータルで見た場合バランスはきちんと取れているわけですが)。このような特定キャラを中心としたエピソードはこの後ククト星篇のスタートと共に比較的スタンダードなスタイルとなります。
■タウト星に突入するロディの行動は、劇中に「いちかばちかだ」というセリフが2回も登場することから考えても少々彼のキャラクターとは異質なものです。フツーに考えると「周りの静止を振り切ってタウト星内部に突入」という役回りはケンツがやりそうなもので、そこで彼を止めるためにロディ(あるいはバーツ)がやむなくタウト星内部に突入せざるを得なくなる…という展開のほうがハマっている気がしないでもありません。もっともこういう時に主人公以外のキャラが捕虜となった場合、次の第28話で「捕虜となった側」「残された側」両者の視点から物語を描くことが不可能になってしまうので、第3クール以降若干キャラ設定が変更になったことと合わせてロディがこういう役回りをせざるを得なかったのでしょう。ただストーリー上、彼が「いちかばちか」に賭けざるを得なかった経緯をきちんと説明しきれなかった感があるのは少し残念です。
■「ノーミソクールクール」ことタウト星通訳がこの回初登場。彼のキャラクターとセリフにはすさまじいインパクトがあり、当時のアニメ誌では彼の口調が大ブームとなりました(一部誇張表現あり)。もっとも「バトルシップは何隻ですかぁ」「愛するパパさんそれとも愛するユアティーチャー?(※このセリフは第28話)」という怪しすぎるセリフは一発で聞き取って理解するにはだいぶムリがありますが、それもご愛嬌。
■タウト星内部でARV(ズゴッホ)に囲まれたロディがポッドでバイファムから離脱するシーンがあります。のちの新作「13」第4話ではロディがポッドで破壊された地球軍駆逐艦カーターのブリッジを調査して回るシーンがありますが、オリジナルシリーズでロディがポッドでバイファムから離脱するシーンはこの第27話が最初で最後です。もともとポッドシステム自体こういう場面でこそ使う必然性があるだけに、ここできっちりとポッド脱出シーンを組み入れた展開はさすがの一言。
■兄を心配するフレッドの描写は次の第28話だけではなく、そのまま第30話へと繋がっていくことになります。ロディとフレッドの兄弟関係を軸とした描写は27→28→30→32話と断続的に登場し、少々まとまりに欠ける第3クール序盤の展開に結果的に一本筋を通す形になっています。
■タウト駐留軍がロディを殺さずに捕虜にしたのは、地球軍艦隊およびリフレイドストーンについての情報を集めることにあったと推測されます(そのまんまですが)。尋問シーンでのリフレイドストーンについての会話は、第26話に続きリフレイドストーンがククト軍にとって非常に重要なアイテムであることを示唆しています。この回冒頭タウト星がジェイナスの接近にも無反応だったのはリフレイドストーンの影響があったからだと解釈できないこともありません…が、これがもし事実であるならそれを匂わせる演出がどこかにあってもよかったような気もします。


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