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第21話
「敵ビーム波状攻撃? 僕たちに明日はある」

1984年03月16日放映


ジェイナスに敵からの収束率の悪いビーム攻撃が続いていた。カチュアは遺跡から出ているエクストラ力線の影響でないかと疑うが真相は分からなかった。そんな時、シャロンとペンチに秘密を知られたケンツが姿を消してしまう。彼を探しにきたフレッド、そしてバーツとロディは倉庫にあったヌード雑誌を発見。スコットを倉庫に閉じ込めてしまう。敵ビーム攻撃による振動の中ようやく救出されたスコットだったが、ヌード雑誌の中に埋もれているところをシャロンに発見されてしまった。スコットが弱味を握られたまま、ジェイナスは一路タウト星に向かう…。

もはや何の説明も不要、「バイファム」を語る上で欠かすことのできない名エピソード続出の回です。僅か30分という時間にこれだけの数のエピソードを投入できたのは、続く第22話で物語の大きな転換点を迎えるというストーリー上の理由もあるでしょうが、ここまで一切安易な戦闘シーン等で視聴率を稼ごうとせずに2クールの物語の殆どをキャラクター描写に費やしてきた成果に他ならないでしょう。しっぽの存在を確かめようとケンツの入浴を覗くシャロンとペンチ、その2人にお尻のアザをみられて姿をくらますケンツ、そしてロディとバーツが仕掛けたエロ本を前にしてのスコットの表情やカクカク歩き(前の第20話とキャラクターが正反対となるスコットを見事に演じた鳥海氏のハイテンション演技と、入魂の作画!)に注目が集まるところですが、細かいところでは動揺するフレッドの表情や「アタシお尻青くないよ」とくるっと回ってポーズをとるルチーナら、子供達の表情も作監の芦田氏によって生き生きと描かれていて、芦田ファンは隅々まで要チェックです。この話によって3クール以降の子供達の人間関係が確立したといえます。

さて、この回の主役とも言えるスコットについて。これまでの話において、彼は「気弱ながらも頼り甲斐のあるキャラクター」として演出されていました。しかしそれらの演出を積み重ねるうちにスコットは近寄り難いキャラクターであるという印象を視聴者が感じ取っていたのもまた事実です。この前の第20話の冒頭、怒鳴り散らすスコットを唖然と見つめるロディ達の描写はまさにその象徴だと言えるでしょう。視聴者だけでなく、他のクルーにとってもスコットは近寄りがたいキャラクターだったのです。
この第21話が優れている点は、まさにスコットのそのキャラクターを破壊してしまったことにあります。正確に言うと破壊してしまったのではなく、彼をこれまでと全く違うシチュエーションに放り込むことによって彼の新たな面を引き出したということがポイントなのです。エロ本という小道具を与えられたスコットは、これまで視聴者が持っていたスコットというキャラクターに当てはまらない行動を取ります。これがロディとバーツであれば、過去のケイトの水浴びシーン(第6話)などもあって視聴者はそういった場面で彼らがどのような反応をするか把握しています。事実この第21話でもロディとバーツがエロ本を読みふけるシーンがありますが、そのリアクションはスコットのそれと比較すると遥かにインパクトの弱いものです。
バーツとロディが仕掛けたエロ本を見つけ、途端に挙動不審者に変貌するスコット。その彼の姿は決してこれまで築き上げられた「スコット・ヘイワード」というキャラクターを否定するものではなく、あくまでこれまでのキャラクターに上積みされるものでした。視聴者から見てこれまでの彼に最も欠けていた「親近感」を描いたこのエピソードはまさに絶妙でした。

…これまで圧倒的に優位な立場に立っていたスコットはこの一件でシャロンに弱みを握られ、急に人が変わったようになります。シャロンにエロ本を突き出されて慌てふためくスコット、彼の慌てぶりを見て何のことだか分からずにキョトンとするクレア、それを見て大笑いするロディとバーツ。弱みを握られたスコットをリーダーに立て、ジェイナスはタウト星を目指します。

■この第21話…というよりエロ本のエピソードは放映延長が決定したことで急遽日の目を見たエピソードであり、放映が打ち切りになっていればカットされていた回として知られています。ちなみに打ち切り案ではこの第21話が存在せず、第22話以降のエピソードが前にずれる形でストーリーが完結するはずだったそうです。この第21話が存在しない「バイファム」というのは今となっては想像もできません。
■これだけ危険なネタを小中学生を対象とした番組の中で(しかもゴールデンタイムに)放映してしまったのは、放映延長が決まったことによるスタッフのいい意味での開き直りと「バイファムという物語を支えているのは子供達のキャラクターである」というスタッフのある種の確信が成せる業だったのではないでしょうか。幻に終わるかもしれなかったこのエピソードがスコットというキャラクターのポジションを確固としたものにし、ひいてはバイファムという物語そのものの流れまで変えてしまったことは特筆すべきことです。この回はストーリー的には「リフレイドストーンから出ている波がククト軍のビームをねじ曲げているらしい」ということが分かっただけで、メカアクションは一切なく、さらに言うなら13人が親を探す物語はなんら進展を見ません。しかしバイファムという枠組みの中でこういったエピソード作りが可能であることを視聴者(+スポンサー?)に呈示したことがこの第21話の最も素晴らしい点ではないか、私はそう思っています。
■この回見事だったのはアバンタイトルの出来。クライマックスのシーンを見せていながら本篇そのもののネタバレは一切なく、スコットが何故慌てふためいているのか、何をロッカーに投げ込んでいるか視聴者は本篇を見るまでその意味が分かりませんでした(もっとも本篇の展開は視聴者の誰もが予想できない内容だったわけですが…)。ちなみにこのアバンで使用された音楽はサントラ番外篇収録の「アクション パート1」として収録された曲で、のちの「13」第1話や第15話など印象深い回のアバンに使用されています。
■スコットばかりが目立つこの回ですが、ほかのキャラクターの描写も見逃せません。ケンツを中心として描写されるジミー、シャロン、ペンチ、そしてスコットを罠にはめるバーツとロディ、そしてその間を繋ぐフレッドをはじめほとんどのキャラクターに見せ場が用意され、しかも彼らの行動が有機的に結びついている点はまさに珠玉の構成だといえるでしょう。逆にこの回あまり目立たなかったカチュアなどは、むしろこの種のエピソードになかなか入り込めないこと自体逆にキャラクターが完成していることが表されています(彼女がこういったコミカルな場面で動かしづらいキャラであるのは、のちの「13」第15話の消火器掛け合いシーンなどでも証明済)。
■この回のスコットのキャラクターが非常にユニークなものであり、バイファムを代表するエピソードであることは間違いないでしょう。しかしこのキャラクターが単に「お笑い」と解釈された節がある以降のエピソード(特にOVA〜「13」が顕著)には個人的に大いに不満があります。彼の魅力は真面目な部分とこのようなキャラクターが表裏一体になっている部分にあり、一方だけを取り出して論じるわけにはいきません。スコットにとってこの第21話はまさに画期的なエピソードでしたが、「バイファム」劇中で描かれたスコットのキャラクターは他の多くのエピソードが有機的に結びついているということを忘れてはいけないでしょう。
■というわけで、平野靖士さんに拍手。以上。


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