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第6話
「博士をさがせ!異星人との遭遇」

1983年11月25日放映


行方不明になったクレークを探すため、ケイトとロディ、バーツの3人が通信の途絶えたバルチカンへと向かう。湖畔での一晩のキャンプを経て街に到着した彼らが発見したのはクレークの乗っていた輸送機の残骸だった。敵のRVに襲われるも間一髪地球軍に助けられるロディ達。しかし地球軍は子供達の救出が目的ではなく、クレークの捜索を打ち切るとその場を立ち去る。やりきれなさに涙を流すバーツ。そしてひとり茫然自失のケイトにロディはかける言葉もなかった。

バイファム世界の中で13人のキャラクターを用いてどのようなドラマを作り出すか。この第6話はいち早くその問いかけに応じ、その後のストーリー展開に大きな可能性を提示した回だったと言えるでしょう。通信が途絶えたクレークの捜索に出発するというシチュエーションのもと、この回はロディ、バーツ、ケイトの3人が主に描かれることになりますが、僅か3人だけでも(しかもメカ抜きで)これだけ印象的なドラマが生み出せるという、この第6話の価値はまさしくこの部分にあったと言えます。この回の反響がのちの第21話のエロ本話に繋がることを考えても、この第6話はバイファムという物語に限りなく影響を与え、その後の路線を決定付けた回であることは間違いありません。バイファムという物語を通して見た時、「あ、この回がすべての発端だったんだ」と思わずにはいられない、この第6話はまさにそんな回だと言えます。

さて、この回の主役はロディです。ロディという主人公がどういったキャラクターなのかは、この第6話までほとんど描写されずじまいでした。弟のために戦火の中バッグを取りに行ったり、多少コンピューターに詳しかったり、また第4話では「坊や」と呼ばれムッとする描写などもありますが、そのことが「ロディ・シャッフル」というキャラクターを決定付ける内容だったかというとそうではありません。フレッドとの対比上しっかりした面がここまで強調されてきたロディではありますが、彼自身はバイファムという物語において間違っても「大人」「指導者」としてふるまうキャラクターではありません。彼が成長していくこと自体がバイファムという物語のひとつのテーマである以上、この時点での彼の等身大のキャラクターを制作側は視聴者に強く印象づける必要がありました。
その意味で、この第6話はまさに主人公ロディのための物語であったと言えます。ストーリーは終始ロディの視点で描写され、そこにはこれまでのロボットアニメではなかなか見られなかった主人公像を見る事ができます。

…ケイトとロディ、バーツの3人は行方不明となったクレークを捜索するため、通信の途絶えたバルチカンへ出掛けます。夕日の中ベルウィックの荒野を疾走するバギー。バギーの後部座席から偶然ケイトの胸元を見てしまったロディは顔を赤らめます。一旦目を逸らしたにもかかわらずさらにその後もう一回見てしまうところに彼の心理状態が窺えてユニークですが、このシーンは第1話以来どことなく表情がぎこちなかった彼が劇中で初めて少年らしい表情を見せた瞬間でもありました。
日が暮れ、オアシスのほとりでキャンプを張る3人。ロディが「殺し屋」であるギャンザーに手を触れそうになる一幕もありますが、無事にキャンプの設営を終えた彼らはテーブルを挟んで食事を取ります。このシーン、ケイトがクレークのことを好きであると言った直後にロディが「じゃあ、結婚するの?」と聞き返すあたり、ロディの「思春期」を感じさせる描写として非常に象徴的です。ロディにとっての異性観というのは、まだ「好き=結婚する」という単純な図式でしかないのでしょう。クレークについての話題が続く中、ロディとケイトの会話はどことなくギクシャクしたものを感じさせます。ロディとは同い年であるバーツが話題の上でもケイトと堂々と渡り合っているのとはまさに対照的です。前の第5話でもそうでしたが、こんなところにも年齢以上に彼らの差が感じられます。

その夜、何かを吹っ切るように湖で泳ぐケイト。いち早く彼女の行動に気付いたバーツに誘われ、ロディは彼女が湖で泳ぐ様子を木陰から見守ることになります。バーツが席を外しているちょうどその時、ケイトが湖から上がってきます。スターダストにまとわれた幻想的な彼女の姿を見て息を呑むロディ。その夜なかなか寝付けない彼は、ケイトが泳いでいた湖畔へと再びやってきます。彼はきっとどうしたらいいのか分からないままそこにやってきてしまったのでしょう。そこに現れたバーツはそんな彼を誘って湖に入ります。ロディの屈託のない表情、彼ら本来の少年らしさが表れたシーンです。これらのシーンではロディの心理状態が(セリフがほとんどないにもかかわらず)表情と映像、音楽で的確に表現されており、この第6話のまさに中核のエピソードであると言えそうです。

そして翌日。バルチカンにたどり着いたロディ達は、彼らは博士が乗っていた輸送機の残骸を発見します。そこに現れるアストロゲーターのARVジャーゴ。街中で追撃を受けるロディはジャーゴに壁際に追い詰められ、恐怖のあまり手にしていた銃を落とします。シリーズ後半の勇敢なロディからは考えられない行動ですが、これも後々意味を持ってくる描写のひとつであると言えます。
結局彼らはすんでのところを地球軍のRVに救われ、九死に一生を得ました。しかしディルファムのパイロットはクレークの安否を確認しに来ただけであり、自分たちは子供達を助ける命令は受けていないと突き放します。やりきれなさに悔し涙を流すバーツ、そして輸送機でクレークの手持ちの品を回収するうち、クレークの自分に対する気持ちに気づき絶句するケイト。そしてそんなケイトに言葉をかけられず、無言のままクレークとの写真をそっとケイトに手渡すロディ。どこか寂しげな彼の表情は、ケイトの気持ちの中に入り込めなかったことに対する自分の無力感を感じていたからではないでしょうか。この第6話が語られる際、水浴びシーンを中心としたキャンプばかりが取り上げられてしまいがちなのですが、ロディのその後の成長にダイレクトに関わるこういった演出があってこそこの第6話はエピソードとしての意味を持ってくるのではないかと思います。

クレークの遺体は結局発見されません。子供たちがクレークという大きな支えを失ったのと、ロディ達が実際にアストロゲーターに接近遭遇したのが同一の話の中で描かれたというのは非常に興味深いことです。そしてこの事件を皮切りに、アストロゲーターは確実に彼らの身近に迫ってきます。

■彼ら3人の物語以外にも、のちの第32話「雨上がりの再会」において重要な小道具としての役割を果たすイチゴパンツがこの回初登場したり、スコットの「(冗談を)寝ずに考えたんだ」というセリフなど、随所に小ネタがふんだんに盛りこまれています。
■手に留まったスターダストに自分達の姿を重ねるクレア。このシーンはスターダストを通じてロディ達一行と繋がっており、美しい映像、美しい音楽と共に非常に印象的なシーンです。「スターダストは一週間しか生きられない」「この戦争、いつ終わるのかしら…」というクレアの2つのセリフは、一回聞いただけではどのような繋がりがあるのか分かりません。クレアが自分たちをスターダストの姿に重ね合わせている、そのことが分かった時このセリフは非常に重みのあるものになります(ここでのスコットはこのセリフの意味を理解していません)。第8話ラストでもスターダストをモチーフとした場面が見られ、ここでも「スターダスト=生」であることが暗示されていますが、この回のクレアのセリフは第6話を代表する名台詞と言っていいでしょう。
■この回に登場したベルウィック星の原住動物ギャンザー。実はギャンザーが画面に登場したのは次の第7話冒頭と合わせてたった2回だけなのですが、非常にインパクトのあるデザインとユニークな?キャラクターで、バイファムの物語における名脇役として名をとどめることになりました。
■この回ARVジャーゴが初登場。ウグなどの汎用ARVとは違う一風変わった動きとカラーリングで非常に印象に残るメカです。またこの回は生身のアストロゲーターが初めてロディ(&視聴者)の前に登場した回でもありますが、距離が離れていたこともあってか、ロディにとってはのちの第9話での接近遭遇(破壊されたジャーゴからARVパイロットが脱出する)のほうが印象的だったようです。この第6話が(サブタイトルに反して)異星人との遭遇そのものが主題ではなく、あくまでも「ロディの成長譚」にあったことが本篇でのこのような演出に繋がったと言えます。
■新作「13」の第1話では、突然の異星人の攻撃の中はぐれた両親を探していたバーツがRVディルファムを拾い、ARVに立ち向かうシーンが描かれています。彼がディルファムに搭乗するまでの一連の流れは、この第6話冒頭でバーツが語った避難時の様子(「親とはぐれた」→「しばらくはぶっ倒れてたらしい」→「その時ディルファムを拾った」)を忠実にトレースした形になっています。
■本放送当時、筆者はバギーの後部座席に乗るロディが何故顔を赤らめたのか分かりませんでした。ケイトの胸元を写したカットがほんの一瞬だったため、その意味に気付かなかったのです。このカットは微妙なタイミングで画面に登場するため、会話だけを追っているとうっかり見逃してしまいかねないものです。とはいえ、もしもこの場面でケイトの胸元を強調しすぎると(例:ロディの視点で徐々に胸元がアップになる、等)が挿入されていたとするとこのシーンは完全にコメディになってしまい、前後のシーンとのバランスが取れなくなってしまいます。その意味でもこのシーンの演出は適切なものであり、きっちりとドラマの中でこれら一連のシーンを描いていこうとしていたスタッフの意図が見て取れます。或いはこのシーンをここで挿入することにより、Bパートのケイトの水浴びシーンにスムーズに繋げるという狙いがあったのかもしれません。もっとも後者については、ゴールデンタイムに家族と共に放送を見ていた視聴者をかなり動転させるものだったことは間違いありませんが…。
■遠くで起こっている戦闘を見ながらルチーナが「きれい、花火みたい」と呟くシーンがあります。戦闘がまだ子供達の身近に迫っていないことを如実に表した彼女ならではの名言ですが、次の第7話ではそのルチーナ自身が実際にアストロゲーターと遭遇することになります。


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