[TOP]



【←前の話】 【放映リスト】 【次の話→】

第2話
「緊急発進! 傷だらけの練習艦ジェイナス」

1983年10月28日放映


シャトルでクレアド星を脱出したロディたちはステーションに到着し、先に避難していた子供達と出会う。兵士の数が足りないため、避難してきた民間人の大人達はベルウィック星へ向かう練習艦ジェイナス号の出港を乗組員と共に支援することになる。だがそこに敵が来襲し、RVとウェアパペットでこれを撃退するものの艦長ほか多数の乗組員が死亡。民間人にも多数の被害が出た。

この第2話は実質的に前の第1話との前後篇になっており、スタッフもほぼ同じ顔ぶれとなっています。物語の内容に関しても「今後主役となる子供達をこの第2話までにひととおり登場させてしまう」という筋書きがあったのではないかと思われ、ベルウィックで合流する3人を除くすべての子供達がこの回で登場することになります。
その中でも、第1話で既に登場している3人(ロディ、フレッド、ペンチ)を除いて真っ先に登場したキャラクターがケンツだったというのは、バイファムという物語を語る上で非常に象徴的な出来事です。このあと最終回まで物語を引っ張っていく役割を担うことになる少年ケンツの登場により、子供達の物語は(すべての登場人物が出揃うのを待たずして)急速に動き出すことになります。

クレアドから脱出してステーションに到着したロディ、フレッド、ペンチの3人は練習艦ジェイナスの食堂に案内され、先にステーションに到着していた子供達と出会います。この直前に格納庫内でロディ達が出会っていたケンツを除き、この回では他の子供達の描写はそれほど多くありません。年齢をひとつ多めの「5歳」と答えるルチーナ、一風変わった雰囲気を漂わせるシャロンのように初登場シーンで早くも「らしさ」を発揮したキャラクターもいますが、物語は第1話同様ロディとフレッドの視点から進行する形となります。
その頃軍はアストロゲーターの来襲に備え、民間人を避難させるため練習艦ジェイナス発進の準備を進めます。ベルウィックのステーションに向けて出港の準備がすすむ中、避難民であるクレークとケイトは事情を知るため軍の司令官に面会を求めます。このようにAパートではロディを軸とした「子供達の物語」と軍人達による「大人達の物語」がパラレルに進行し、クレークとケイトがその仲立ちを務める形となります。
しかしアストロゲーターの突然の来襲によって、パラレルに進行していた2つの物語は急速に結びつくことになります。とはいえ子供達はまだリアルな戦争の前面に立たされているわけではなく、わずかに面識のある仲間と食堂で身を寄せ合って非常事態が過ぎ去るのを待つばかりです(子供達を前面に立てた同様のシチュエーションは、子供達が再度宇宙へ戻る第12話以降で丹念に描かれることになります)。戦闘が続く中、ジェイナス艦長の戦死によって突如指揮官を任せられた「中尉」は部下に的確な指示を与え、オペレーターやRVパイロットは彼の指示によっててきぱきと行動します。大人達が任務のために命をなげうって行動するこの姿は一歩間違えば軍国主義的な演出になりかねないのですが、ここでの彼らはあくまで「子供の視点から見た立派な大人」として描かれ、そしてそのことは「バイファム」という作品におけるひとつの方針としてその後のストーリーにおいても貫かれることになります。
アストロゲーターとの激しい戦闘のさ中、ジェイナス艦内では民間人の子供の一人が無重力バレルで遭難するという事件が起こります。遭難者がフレッドだと思い込んだロディはクレークに救助を要請しますが、ここでの遭難者は第1話での避難劇の主役となったフレッドではなく、冒頭で登場したばかりのケンツでした。自ら宇宙服を着用してケンツの救出に向かうクレークと不安がるロディを励ますケイト、彼らもまたロディ達の視点から見た「理想的な大人」として物語を演出していきます。

何とか敵の追跡を振り切り、つかの間の平和が訪れたジェイナス。クレークとケイトは「何故異星人が突然来襲したのか」という視聴者の疑問を解き明かそうと様々な類推を試みます。彼ら2人のやりとりが物語の合間に挿入されることによってバイファムの世界観が確固たるものになっていく一方、ジェイナス艦長やミセスロビンソンを含む民間人など、「大人達の物語」側の登場人物は次々と退場していきます。次の第3話では「大人達の物語」側の最後の砦である中尉の死によっていよいよ子供達が「大人達の物語」に組み込まれていくことになるのですが、子供達はこの時点ではそのことを知る由もありません。

子供達はこの先に待ち受ける悲劇も知らず、一路ベルウィック星の宇宙ステーションを目指します。

■魅力ある子供達がこの回一挙に登場したことでインパクトこそ弱いものの、その後の子供達の生活の場となるジェイナスがこの回初登場。メインコンピューターであるボギーの「どういたしまして」という何気ない一言は、本来主役である子供達の存在以上に視聴者にインパクトを与えました。またこの回では飛来するミサイルを撃ち落とすジェイナスやRVを撃破して不気味に光るウグの単眼など迫力のあるカットが続出、また格納庫のシーンではその後ロディが搭乗する7番のバイファムが登場したほか第1話では出番がなかったパペットファイターも出撃するなど、その後の「銀河漂流」に向けての土台が着々と整えられます。とはいえ、今後キャラ描写を中心に物語を進めていくという意向から(大人達が健在であるうちに)メカ描写が早めに済まされた、というのが実際の理由なのではないでしょうか。
■この次の第3話ではケンツとマキ、そしてケンツとスコットが口論するシーンがありますが、この第2話でケンツのキャラクターがきちんと視聴者に認知されたからこそ、マキやスコットら未だキャラクターが認知されていない登場人物との絡みのシーンが成立したと言えます。その意味でもケンツ中心に描写されたこの回は、その後の子供達の人間関係、ひいては劇中のエピソードの組み立て方を決定づけた重要なポイントであると言えそうです。
■この回からアバンタイトルが機能しはじめます。本篇のハイライトを(内容がバレない範囲で)開始前に見せるというこの画期的な方式は、その後もバイファムにおけるひとつのフォーマットとして定着していくことになります。ちなみにこの回の内容は、ケンツが無重力バレルで感電して警報が作動するシーンのフィルムでした。
■この回では乗船していた民間人を含む多くの死者が出ますが、その様子が画面で直接的に描かれることは殆どありません。制作スタッフ(網野哲郎氏:演出)の当時のコメントにも「残酷にならないよう、爆発で吹き飛んだように処理した」という発言があります。放映時間がゴールデンタイムであることを考慮した演出とはいえ、なかなか良心的な配慮ではないでしょうか。
■この回で爆死したジェイナス艦長には登場時に名前がなく単に「艦長」とだけ呼ばれていましたが、第22話でグレード・バーナスという名前だったことが明らかにされます(階級は大佐)。彼や「中尉」が劇中どうして名前ではなく肩書きで呼ばれていたかにはきちんとした理由があると思われますが、これについては第3話を題材にじっくりと考察したいと思います。


[ トップページ ]