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第1話
「異星人来襲! 開拓星から全員脱出せよ!」

1983年10月21日放映


宇宙考古学者のクレークは開拓星クレアドで謎の石板を発見、地球軍司令に入植の一時中止を申し入れるが拒否されてしまう。しかしその直後突如アストロゲーターが機動兵器による攻撃を開始、入植していた民間人は空襲を避けながらクレアド星から脱出することを余儀なくされる。最後にクレアド星からの脱出に成功したシャトルにはロディにフレッド、ペンチ、そして発掘された石板の回収を終えたクレークと助手のケイトが同乗していた。

全46話に及ぶ『銀河漂流バイファム』の物語は、イプザーロン系の開拓星であるクレアドでの1シーンからスタートします。「子供達が主役である」バイファムの物語ですが、物語の冒頭ではクレーク博士と助手のケイト、基地指令(准将)といった大人達が謎の遺跡を巡り議論するシーンから始まることになります。「子供達が主役である」ことを予め知っている(と思われる)視聴者にとっては少なからず意表を突かれる導入部だった訳ですが、このシーンはこのあと第3話までを費やして丹念に描かれる「大人達が作り出した状況に子供達が否応なく引きずり込まれていく」過程を描写するための重要なイントロダクションとなります。
そしてこのシーンで登場した「遺跡」ことリフレイドストーンは、劇中最大の謎としてその後の子供達の冒険と共に存在し続けることになります。

この回は13人の子供達のうち、ロディとフレッドの兄弟、そしてペンチの3人しか登場しません。異星人の突然の来襲によって避難することになるロディとフレッド、しかし弟のフレッドは避難の最中にもかかわらず、3日前に転校してきた女の子(ペンチ)の名前が偶然分かったことで嬉しそうな表情を浮かべます。さらに彼は直後に降下してきたアストロゲーターの機動兵器を目撃して一言「すごい…」と呟きます。決して「怖い」ではなく「すごい」という表現を用いてしまうところに、自らの置かれた状況をいまいち把握できないフレッドが端的に表現されています。突然非日常の世界に放り込まれた彼を中心とする描写はこの後も続き、荷物を詰めた彼らが宇宙港へ向かうシーンにおいては兄ロディが一目散に家から飛び出していくのに対し、後から出てきたフレッドは戸が開け放たれた家を振り返ってじっと見つめるという象徴的なシーンもあります。
こうして状況を飲み込めないまま兄と共に空港に到着したフレッドですが、そこで目撃した戦火の前に初めて恐怖心を抱くことになります。兄のビンタによって正気に返り、ひとまず倉庫に避難するフレッド。この直後彼のキャラクターを決定づけた「おもらし」シーンが登場する訳ですが、これは先のシーンと対比することでより象徴的なエピソードとして視聴者の記憶に残ることになります(後々までネタにされたフレッドにとっては迷惑な話だったでしょうが…)。

一方そんなフレッドと対比することにより、兄ロディのキャラクターはより引き立って見えます。非常事態にありながら弟とペンチを安全な場所に避難させた後、弟のためにパンツの入ったバッグを探すロディ。彼はしっかりとした口調で大人と会話し、戦火の中自分の判断で行動します。しかしそんな彼でさえ物語冒頭ではペンチをこっそり見つめるフレッドをからかったり、シャトルに乗りこんだ後はおもらししたフレッドを冷やかしたりという子供らしいあっけらかんとした行動をとります。異星人の突然の来襲という非常事態の中で描かれたこの子供らしい純真さの描写が、まさにその後の「バイファム」という物語の根幹を作り出していくことになります。
このあと46話にも及ぶ物語の第1話において、「戦争=大人達の世界」と「日常=子供達の世界」というバイファムの物語を構成する両極端な要素が既に出揃っていたことは注目すべき点です。同じサンライズの作品である「ガンダム」と物語の導入部から同じシチュエーションを構えていながらも、中盤以降(明らかに意図的に)異なっていた展開は、そのままその後の「ガンダム」と「バイファム」の主題の違いとなって表れています。

そしてロディ達3人は事態を把握できないまま開拓星クレアドを離れ、他の避難民が待つ宇宙ステーションへ向かいます。

■この第1話はストーリー・作画など全てにわたり史上希なクオリティの高さを誇っており、特に映像面については新シリーズ「13」総集編での使用の際もほとんど違和感がありませんでした。そもそもこの第1話は前後編である第2話とともに非常に早い時期から制作がスタートしていたことが有名であり(ストーリーが決まらないうちに描き始められた部分もあったとか…)画面を通じて伝わってくるスタッフの気合には圧倒されます。なおこの回に絵コンテとして参加されている横山裕一朗氏(絵コンテ)が監督の神田武幸氏本人であることはあまりにも有名。劇中に見られるいくつかの特徴的な構図は、氏が同じペンネームで参加する第46話(最終回)にそのまま引き継がれていきます。
■随所に挿入される戦闘シーンにおいてはバーニアを使って宇宙空間での姿勢制御をするバイファムらRV、また無重力状態のシャトルの座席でペンを回転させるクレーク、パイロットの「エンジンが咳をしている」という表現など、SF色を強調する細かい演出も目を引きます。これらのシーンは限られた時間の中でバイファムならではの世界観を演出することに大いに貢献しました。
■新作「バイファム13」の第1話(総集編)では、この第1話に相当する部分に新作カットがいくつか追加されています。冒頭ではロディが木陰にいるフレッドを見つけるまでの様子や、避難するために自宅で荷物を準備するフレッド(バッグの中に予備のパンツを入れるという描写の細かさ!)、クレアとともに空港へ向かうスコットなどです。また滑走路を走るロディの上を通過していくシャトル(旧作のカット)の乗客にマキやシャロンがいる(新作カット)という、のちの彼らの出会いにつながるシチュエーションもあります。逆にこれらのシーンがなぜ旧作では描かれなかったのか?という問いは、そのまま「旧作と13のテーマの違いは何か?」という問いに置き換えることができるのではないでしょうか。
■この回がガンダムの第1話と構造がよく似ていることは前述しました。主人公が主役メカに乗り込むというシチュエーションこそありませんが、冒頭のスペースコロニー(宇宙ステーション)にかぶるナレーションや、敵の急襲に逃げ惑う民間人といったシーンはガンダムを意識したスポンサーや局側の要望によるものだったのではないかと思われます。一方そういった展開の中で、異星人の存在が襲来前にすでに民間人に認知されているという設定は、それまでのSFモノの第1話に見られない斬新なシチュエーションだったのではないかと思います。
■その後バイファムにおけるひとつのフォーマットとなったアバンタイトル(通称ア番)は、この第1話についてはその後の「ハイライト紹介」的な役割ではなく、Aパートに連なるドラマの一部として描かれていました。第1話についてはこの演出が大いに功を奏し、その効果もあって直後のオープニングは我々視聴者に大変新鮮な印象を与えてくれました。
■ロディとフレッドが避難する車に乗り込み空港へ向かうシーンからスタートするBGM「異星人」は、当時放送を見ていた小学生の私に強烈なインパクトを与えました。一曲の間に避難する車内→空港→RVの戦闘と次々に異なるカットが描写される手法は非常に印象的で、私がこの年の暮れに発売された音楽集を購入することになったのはこのシーンのこの曲があったからといっても過言ではありません。当時はビデオこそなかったものの、音楽集のこの曲を聞くとすぐに第1話のこれらのシーンが頭の中に甦ってきたものです。


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