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その2


序章




「あ〜っ待って待って!シャロン違うんだ、ワケを聞いて、ワケを!

これには、深ぁ〜いワケがあるんだよぉ〜」



バイファムファンなら誰もが知っている、第21話でエロ本が見つかった時のスコットのセリフである。コミカルな動作と鳥海勝美氏のハイテンション演技が見事に融合したこのシーンは、スコットというキャラクターがブレイクする直接のきっかけとなっただけでなく、バイファムという作品をファンの記憶に留め、かつ後世まで残すことに大いに貢献した名シーンであることに疑いの余地はない。(そうか?)

 

 


ところで。

皆さんは、上記セリフのシーンにおけるスコットの動きをじっくりとご覧になったことがあるだろうか。

 

 

 

 


文章で表現した場合、


「大慌てでシャロンの前に走り出て、両手を広げて制止する」


という一文で終わってしまう動きである。
おそらく、平野靖士氏の脚本にも、この程度の描写しか存在しないのではないかと考えられる。


 



しかし実際のこのシーンではスコットのアクションにすさまじいまでの作画枚数が費やされており、「バイファム」という作品を通して観た時、明らかに異彩を放つシーンに仕上がっている。



以下、本編の映像を基にGIFアニメで再現してみたのでご覧頂きたい。
予めお断りしておくが、部分的にスコットの手足が切れている箇所は、本篇でシャロンの体に隠れて見えない部分である。



アニメ的、と言ってしまえばそれまでだが、子供達の動きをリアルに描写することを至上命題としていたバイファムという作品に、敢えてこのような人間離れしたアクションが挿入されたということは、ひょっとするとこのアクションもリアル描写の一端であるとスタッフの中では定義づけられていたのかもしれない。

 


つまりスタッフは、このシーンのスコットの動きについて
「ほかのキャラのアクションと同様にリアルな描写の一部であり、生身の人間でも再現可能」
と考えていたのではないか?と考えられるのである。

 

 

 

 


ここで本題である。

果たしてあの動きを、人間が取ることは本当に可能なのであろうか?

 






というわけで、今回の


バイファム実践委員会、

 

 

お題は


「#21スコットのカクカク動作を検証する」


である。











モデルは例によって、「デジタルコスプレの部屋」でおなじみ、サラリーマン(71年秋モデル)である。


企画の趣旨上、今回はデジタル加工は一切なしである。


では、早速実践と検証に取り掛かりたい。




part1 検証篇




まずは、このシーンのスコットのアクションをじっくりと検証することから始めることにする。
以下は、既出のGIFアニメを分解したものである。

 



最初に、走ってきてシャロンの前に回り込むまでのスコットの動き。



すさまじいまでのアクションである。フレーム数から逆算すると、この間わずか0.8秒の出来事である。驚愕の動作であるというほかはない。
何よりも、最後から3コマ目、常人では考えられないポーズを披露しつつ体を反転させる瞬間まで、最初のコマからわずか3メートル程度しか前進していないことがむしろ驚きである。通常、人間が腕を3回振って全力で走れば、まず10メートル程度は前進するはずである。人間という二足歩行動物にとって、これだけ前進しないことはむしろ「技」の領域である。ヘイワード家の長男、恐るべし。父アンソニーもびっくりである。

 

 



続いて、「これには、深〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」のセリフの部分である。



前から2コマ目の飛行機ポーズで「これには、」というセリフを決めた後、3コマ目以降では「深ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」というセリフに平行して問題のカクカク動きが披露される。一部にバンクも見られるが、同一のポーズと見せかけて微妙に手足の角度が異なるなど、必要以上にコマ数が多い。おそらく70年代当初に流行した踊りの一種「ゴーゴー」にインスパイアされているものと思われるが、見ようによっては一子相伝の暗殺拳の動きのようにも見える。

 



最後に 「深〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い、ワケがあるんだよぉ〜」→静止までの締めの部分である。



狂人化した男が徐々に人間性を取り戻していくまでのプロセスである。

 

 

以上、総コマ数なんと28コマ。一部抽出できないコマを除外したため、トータルではおそらく30コマは費やされていると考えられる。某ディズニーのフルアニメにも匹敵しようかというこの作画枚数は、日本アニメ史上燦然と輝くヒューマンアクションシーンの代表格であろうと噂されているかどうかは定かではないがやはり目に付くシーンである。(わけわからん)

 

 


それにしても、このようなポーズは一体どのような発想から生まれたものであろうか。絵コンテ担当者や作画監督が作画の際自然に考え付いたポーズとは到底考えられないし、かといって実際の人物が行った動きをスケッチした可能性もまず有り得ない。おそらく当時の作画スタジオに神が降臨したのだろうと考えられる。

 

 

それはさておき、次がいよいよ本題である。

 


part2 再現篇 その1




さて、問題はこれらのアクションをどのようにして再現するか、である。

当然のことながら、実在の役者でこれらの動きを再現するのはまったくもって不可能である。
だいたい、 全速力で腕を3回も振りながら僅か3メートルしか前進せず、かつ急停止と同時に全身の関節を外して体を反転させ、その直後に腹筋を過剰なまでに収縮させながら直立→前屈→直立の繰り返しを2往復行い、その間に腕は上下に4往復させる、という動きを瞬時に行うことはどう考えても
ヒト科の動物には再現不可能である。


 

 

が、しかし!しかしである。

 

 

 

 

アニメーションというのは、もともと独立したコマを積み重ねて「アニメート」しているわけで、実際にその動きが行われているわけではない。

 

 

 



つまり、仮に実在の人間であっても、同じように独立したコマとしてこれらのポーズを撮影し、それを「アニメート」すれば、同様の動きが表現できるというわけである。






 

 




例えば、こういうことである。












このコマを
こーしたり


 


 

とか、

 

 

 



このコマを
こーしたり





といったように、一枚一枚写真に置き換えて、最終的にそれらをアニメートすればいいのである。 そうすれば、一見アニメ的なこれらの動きも無理なく再現できるというわけである。

 

 

 

 

というわけで、一枚一枚撮影した結果が以下の写真群である。
ちなみに顔の部分は今回はモザイクではなく「スコットお面」を着用してみた。


 

■走ってきてシャロンの前に回り込むまでの部分を再現


 

■「これには、深〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」のセリフの部分を再現




■「深〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い、ワケがあるんだよぉ〜」→静止までの締めの部分を再現

 

あらためて1ポーズごとに再現してみると、もう、なにもかもが常識外れ、常人が想像できる範囲の外側に存在している動きであることがはっきりと分かる。タダの静止画であるにもかかわらず、そのポーズの異常性は見る者にひしひしと伝わってくる。

スコット=ヘイワード15歳。イプザーロン系の開拓星クレアドに住む、人類を超越した恐るべき少年である。

 



part3 再現篇 その2

さて、全ポーズを再現した後はいよいよフィニッシュである。上記の写真をアニメートした結果をじっくりとご覧頂きたい。この現実に目をそむけることは許されない。


 

 

 








 

なお、「オリジナルと比較しないと分かりにくい」という方のためには、両者を並べた「ユニゾン篇」を用意しておいた。現実と非現実とが華麗なまでに融合した、両者の「舞い」をご覧頂きたい。



 



「街の遊撃手」もびっくりのコンビネーションである。しかし冷静に比べてみると、努力の跡こそ見られるものの、やはり本物と比べると「まだまだ」であることが分かる。手の張り、足の張り、尻の突き出し方。すべてがイミテーションであり、模写に過ぎない。スコット=ヘイワードが劇中で見せたアクションの足元にも及ばないことが、これらの実験で皮肉にも明らかになったのである。

 


そう、スコット=ヘイワードの背中は果てしなく遠い。もっとも、追いつく必要があるのかどうかは別である。

 

 

 

 

 

 

 

 


そんなわけで、今回の結論は以下の通りである。




・どう頑張ってもスコットには追いつけない。


・が、別に追いつく必要はない。





結局、至って当たり前の結論であった。

 


最後に




当委員会では、実践の対象となるテーマを委員の諸君から募集中である。報告は掲示板にて遠慮なく行って頂きたい。


が、報告した以上、貴方がモデルとなる可能性もあるので、くれぐれもそのつもりで。


ではまたの機会に。




おまけ(メイキング)




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